道具立どうぐだて)” の例文
これは単独に寺の建築やその歴史から感ずる興味ではなく、いわば小説の叙景もしくは芝居の道具立どうぐだてを見るような興味に似ている。
義理とか人情とか云う、尋常の道具立どうぐだてを背景にして、普通の小説家のような観察点からあの女を研究したら、刺激が強過ぎて、すぐいやになる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十五六世紀の西洋の甲冑かっちゅうけた士卒が出て、鎌倉武士かまくらぶしせりふを使う。亡霊ぼうれいの出になる。やがて丁抹でんまるく王城おうじょうの場になる。道具立どうぐだてさびしいが、国王は眼がぎろりとして、如何にも悪党あくとうらしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
無筆のお妾は瓦斯ガスストーヴも、エプロンも、西洋綴せいようとじの料理案内という書物も、すべ下手へた道具立どうぐだてなくして、巧にうまいものを作る。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
分からんでもいいや、それよりこのふすまが面白いよ。一面に金紙きんがみを張り付けたところは豪勢だが、ところどころにしわが寄ってるには驚ろいたね。まるで緞帳芝居どんちょうしばい道具立どうぐだて見たようだ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしてすべてこの世界のあくまで下世話げせわなる感情と生活とはまたこの世界を構成する格子戸こうしど溝板どぶいた物干台ものほしだい木戸口きどぐち忍返しのびがえしなぞいう道具立どうぐだてと一致している。
そのそばすすけた柱にった荒神様こうじんさまのおふだなぞ、一体に汚らしく乱雑に見える周囲の道具立どうぐだて相俟あいまって、草双紙くさぞうしに見るような何という果敢はかな佗住居わびずまいの情調、また哥沢うたざわの節廻しに唄い古されたような
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「まだ、なかなかだ。」と独言ひとりごとのようにいって、「長さん。あれァ廻りの拍子木といって道具立どうぐだての出来上ッたって事を、役者の部屋の方へ知らせる合図なんだ。くまでにゃアまだ、なかなかよ。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)