のが)” の例文
この船をのがしたら二度と機会は来ないかもしれない。あの荒れたとぼしい、退屈な、長い長い日が無限につづくことを思えばたまらない。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
面白くはやりし一座もたちましらけて、しきりくゆらす巻莨まきたばこの煙の、急駛きゆうしせる車の逆風むかひかぜあふらるるが、飛雲の如く窓をのがれて六郷川ろくごうがわかすむあるのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
少しの機会ものがさずに金を得る事ばかり考へて居るが、若しどうしても夕飯に有付けぬとなると、渠は何処かの家に坐り込んで、宿の主婦の寝て了ふ十時十一時まで
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
毒婦丹頂たんちょうのお鶴の妹で、綱吉つなきちめかけになり、海雲寺かいうんじの富籤で、一と役買って出たお勢。その後、お上の探索の手をのがれて、しばらく姿を見せなかった不思議な美女です。
誇張して言ったら人かげであったかも知れない、——もう一歩、進んでいうとその北側へのがれた逃げ方、かげの動き方が非常にのろかったのが、松岡にもふしぎに思われた。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ジョンソン大尉インドバハール地方で猴群におどろかされてその馬騒ぎのがれし時、鉄砲を持ち出して短距離から一猴をてしに、即時予に飛び掛かるごとく樹の最下枝に走り降り
自分のいかめしい監視をのがれた子供は家ぢゆうのものに甘やかされて放縱そのもので育ち、今に家産も蕩盡し、手に負へない惡漢となつて諸所を漂泊した末、父親を探して來るのではあるまいか。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)