逢坂山おうさかやま)” の例文
逢坂山おうさかやまの大谷風呂を根拠地とした不破の関守氏は、その翌日はまた飄然ひょうぜんとして、山科から京洛を歩いて、夕方、宿へ戻りました。
逢坂山おうさかやまの杉木立が魔のように見えて、ごうッと遠い風音も常なら気味の悪い筈だが、お米の今は体の疲れも何の怖さも知らないのだった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに夜道になると逢坂山おうさかやまを越えるのは一苦労だぜ。……でも、何だってよりによって夕方なぞにお発ちになろうなんてお考えになったのかな。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
その時はもう暗くもあったし、あわただしくもあったので、翌日逢坂山おうさかやまの向こうから御息所の返事は来たのである。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
汽車が逢坂山おうさかやまのトンネルを西へぬけるとパット世界が明るくなるのは愉快だがワッと大阪弁が急に耳に押し寄せてくるのが何よりもむっとするのであった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
どうしても水死をしたいものは、お半長右衛門のように桂川まで辿って行くか、逢坂山おうさかやまを越え琵琶湖へ出るか、嵯峨の広沢の池へ行くよりほかに仕方がなかった。
身投げ救助業 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と、比叡ひえいおろしの吹きすさぶ中を逢坂山おうさかやまへかゝりながら涙を流した。そうかと思うと
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
(鸚鵡石は、志摩国しまのくに逢坂山おうさかやまのが一番名高い。つまり声の反響、コダマの最もよく聴こえる個所なので、現在では少しも不思議とはせぬが、その時代の人は真に奇蹟としていたのであった)
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
逢坂山おうさかやま山城やましろの京の境、奈良坂は大和の京の境であるから、道饗みちあえの祭をしただけで、そこが峠の頂上であったためではなかろう。「たうげ」もまた「たわ」から来た語であるかも知れぬのである。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それも時折にやんで、夜はだいぶけたらしいが、弦之丞はまだ帰らず、逢坂山おうさかやまの上あたりに、不気味な怪鳥けちょうの羽ばたきがする。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京都へ上るときに大津を出て、逢坂山おうさかやまの下の原で、後ろから不意に呼びかけて自分に果し合いを申込んだ薩州の浪人がそれだ。
延喜十八年の晩春の一日あるひ。相馬の小次郎は、生国しょうごくの下総から、五十余日を費やして、やっと、京都のすぐてまえの、逢坂山おうさかやままで、たどりついた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右は比良、比叡の余脈、左は金剛、葛城かつらぎまで呼びかける逢坂山おうさかやまの夜の峠路を、この人は夢の国からでも出て来たように、ゆらりゆらりと歩いていました。
逢坂山おうさかやまの関へかかると、追立おったての役人たちは、役目をすまして、引返した。都からついて来た多くの人々も、思い思い別れの言葉を残して戻ってゆく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柳緑花紅やなぎはみどりはなはくれない」の札の辻を、逢坂山おうさかやまをあとにして、きわめて人通りの乏しい追分の道を、これだけの挨拶で、両人は口を結んだまま、竜之助の方が一足先で、高屐こうげきの武士はややあとから
で、叡山六波羅相互の陣は、逢坂山おうさかやまをはさんで、不気味な暗夜の対峙になっている、というのであった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれだ、あの男だ、そうか、なるほど……いやあの男には、拙者も重なる縁がある、大津から逢坂山おうさかやまの追分で、薩州浪人と果し合いをやっている最中に飛び込んだのは、別人ならぬこの拙者だ。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まだ短夜みじかよも明けない逢坂山おうさかやまの木立の上に、鉄砲を構えて、信長のすがたを待っている怪僧があった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは新撰組の一人で山崎ゆずるという男、かつて竜之助が逢坂山おうさかやまで田中新兵衛と果し合いをした時に、香取流かとりりゅうの棒をふるって仲裁に入った男、変装にたくみで、さまざまの容姿なりをして、壬生みぶや島原の間
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
空を見あげると、一面に、まッ黒なちぎれ雲——逢坂山おうさかやまの肩だけに、パッと明るい陽がみえるが、四明しめいの峰も、志賀粟津しがあわづの里も、雨を待つような、灰色の黄昏たそがれぐもり。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一しょに——これはそもなに? 逢坂山おうさかやまの森をかすめて、ピューッとたこのうなるがごとき音をさせつつ、ななめにひくく、直線にたかく、そしてゆるく、またはやく旋回せんかいしてきたあやしいものがある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とばかり信長は、いよいよ上洛の軍をすすめ、逢坂山おうさかやまをこえた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)