退)” の例文
その時、全身白毛を冠った年寄りらしい狼が天に向かって吠えたかと思うとそれを合図に狼の群は一度に背後うしろへ飛び退さった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いらざるおせッかいといわぬばかりに、愍笑びんしょうをくれたので、新田の老臣は、顔あからめて、あの時は退ッこみおった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恰度ちょうどその時、馬上の武士がかれらが逃げようとする、前の道路に立ちふさがった。村人は一つのかたまりになって後ろ退さりに、火をつけた方に戻るような位置になって行った。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
退さって、じいっと、剣をあげて、次の構えに移ったと見えて、青ざめた星の光が、刀身にちらちらときらめき、遠い常夜灯のあかりに、餌食えじきねらう動物のように、少しばかり背かがみになった姿が
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
お多喜は、ぎょっとして飛び退さった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「だまれっ」と、さらに御叱咜ごしったするどく——「夜来やらいいかなる非常か知らぬが、なんでわが身の処置を、なんじらごとき者のさしずに待とうや。退さらぬか。退さりおろうっ」
「無礼者ッ。腕拱うでぐみしたまま、奉行の前へ出るやつがあるかッ。退されッ!」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大儀じゃった。おぬしらに用はない。門内へ退んでおれ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——宮闕きゅうけつだぞ。ここは宮闕なるぞ。退されッ、退され」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ばかっ。もそっと、道のはた退んでおれっ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
退されっ」
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)