迫持せりもち)” の例文
溝渠こうきょ廃址はいしの赤黒い迫持せりもちの下には白巴旦杏しろはたんきょうが咲いていた。よみがえったローマ平野の中には、草の波と揚々たる罌粟けしの炎とがうねっていた。
と、それから、人造石の樺と白との迫持せりもちや角柱ばかし目だつた、俗悪な無用の贅を凝らした大洋館があたりの均斉を突如として破つて見えて来る。
日本ライン (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
やや下って迫持せりもちの右側に、空色地に金の星をつけたゴシック風天蓋に覆われた聖母像、他の聖徒の像、赤いカーテンの下った懺悔台、其等のものが
長崎の一瞥 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
空想に富む若い建築家の手に成ったもので、幅が広く迫持せりもちが低く、奇怪な装飾があり、機智と様式にみちている。
神の剣 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
すべてまわりのものはこわれ落ちてしまって、一つの迫持せりもちらしいものをそこに止めている。記念物的なありさまは、しばしば荒廃から生まれるものである。
彼女はたゞ機械的にさう讀み下した、そして迫持せりもちした戸口から、彼女の眼は海の方を遠く眺めやつた。その朝は、海は灰色の霧でいかにも朦朧としてゐた。
家の壁だとか、柱時計だとか、寝台だとか、迫持せりもちのところだとかを、つくづく見ておいでになりましたよ。
石の迫持せりもちの下なる長き廊道わたどのみちには、書肆しよしあり珠玉店あり繪畫鋪あれども、足を其前に留むるもの多からず。
駒は迫持せりもち楔石くさびいしに似た形をしていて細い方が薄く、黒漆でその名が書いてある(図139)。
四方の壁面は、ゴンダルド風の羽目パネルで区切られていて、壁面の上層には囲繞いにょう式の採光層クリアストーリーが作られ、そこに並んでいる、イオニア式の女像柱カリアテイデが、天井の迫持せりもちを頭上で支えている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
混雑の中に瞥見する事が出来たが——丸柱や迫持せりもちの廊下や階段や段梯だんばしごや——それは誠に魔法の国にもふさはしい、堂々とした豪奢の趣致と楚々とした優麗の風格とを併せ有してゐるものであつた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
茶いろになった石壁いしかべが剣形迫持せりもちの形をして
廊下の突当りの迫持せりもち窓から一杯の西日がさし込んでいる。そこで、はる子を中心に三四人かたまっていた。
雑沓 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
別に捜し回りもしないで、夕陽ゆうひを受けてる赤いフォールムを見、深い蒼空あおぞらが青い光のふちとなって向こうに開けてる、パラチーノ丘の半ばくずれてる迫持せりもちを見た。
よく築かれた石畳工事は、迫持せりもちになっていてかくまでに丈夫なものである。その一片の底部は、半ば沈没しながらなお強固で、まったく一つの坂道となっていた。
と、それから、人造石のかばと白との迫持せりもち角柱かくばしらばかし目だった、俗悪な無用のぜいらした大洋館があたりの均斉を突如と破って見えて来る。「や、あれはなんです」。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
その状柱列の迫持せりもちを戴けるに似て、波はその門に走り入り、その内にありて戲れ遊べり。突き出でたる巖端いははなに城あり、城尖じやうせんの邊には、一帶の雲ありてしづかに靡き過ぎんとす。
先日河に沿って歩いていたら、迫持せりもちの二つある美事な石の橋があった。その中央の橋台には堅牢な石に亀が四匹、最も自然に近い形で彫刻してあるのに気がついた(図297)。
大小の柱、大小の迫持せりもち、出窓や
彼らがある大きな門の人目と雨とを避けた暗い迫持せりもちの下にはいった時、モンパルナスは尋ねた。
ヴェルダン市役所の跡は、よく整理されている廃墟にいくらかの土台石と数本の太い迫持せりもちの柱列が、青空をすかして遺っているばかりだった。第一回の砲撃をうけた月日。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
此旅人の迫持せりもちの石柱を仰ぎ見るに及びて、我はそのベルナルドオなるをりぬ。
その上すべての繰形モールディングに金が塗ってあるからけばけばしい、重いバルコニーの迫持せりもちの間にあって、重り合った群集の顔は暗紅色の前に蒼ざめ、奥へひっこみ、ドミエ風に暗い。
シナーニ書店のベンチ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
左右二つの迫持せりもち、そういうものをつけてそこに、グレーヴの広場と同平面に控えている。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
床がしき石張で、古代ロシア風のふくれた円柱や重い迫持せりもちが正面階段のまわりにある。
各出口は皆迫持せりもちになっている。リヴォリ街の所は溝渠こうきょの中においても一派をなしている。その上、幾何学的な線が最も適当した場所を求むれば、それはまさしく大都市の排泄濠はいせつごうであろう。
それは穹窿形きゅうりゅうけい迫持せりもちで、しだいに低くなってる隧道の丸天井よりも更に低く、丸天井が下がるにしたがってしだいにせばまってる隧道よりも更に狭かった。隧道は漏斗ろうとの内部のようになっていた。