身躯からだ)” の例文
「そうかい」と碌さんは、身躯からだを前に曲げながら、おおいかかる草を押し分けて、五六歩、左の方へ進んだが、すぐに取って返して
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼がこの考えを起こした後は、固有の偉大なる身躯からだがあるいはかえるとなり、あるいは鳥となり、あるいはへびとなり、種々なる形に変化している。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
三尺あまりの身体に状箱を縛りつけたような身躯からだ、小さな手足にくらべて莫迦ばかにあくどい大きな顔……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
妙子のつかめば消えてしまい相な、しなやかな身躯からだ、ほほえむとニッと白い八重歯やえばの見える、夢の様に美しい顔、胸のくすぐられる様な甘い声音こわね、それらの一つ一つが、時がたてばたつ程
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
身躯からだは漢魏式の決りきったやり方を踏襲しているが、お頭や手は丸で生きている人を標準にして刻んで附けている。法隆寺金堂の薬師にもその傾きはあるけれども夢殿の観音の方が甚しい。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
長い身躯からだうへ小夜着こよぎが掛けてある。三四郎はちいさな声で、又婆さんに、どうして、さうおそくなつたのかといた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
兄さんは誰とどこへ行ってもすぐいやになる人なのでしょう。それもそのはずです。兄さんには自分の身躯からだや自分の心からしてがすでに気に入っていないのですから。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御互おたがい身躯からだがすれすれに動く。キキーとするどい羽摶はばたきをして一羽の雉子きじやぶの中から飛び出す。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長い廻廊をぐるぐる廻って、二つ三つ階子段はしごだんのぼると、弾力ばねじかけの大きな戸がある。身躯からだの重みをちょっと寄せかけるや否や、音もなく、自然じねんと身は大きなガレリーの中にすべり込んだ。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)