跳返はねかえ)” の例文
しかし掛蒲団かけぶとん跳返はねかえされたようにすその方に重なり合っているのです。そうしてK自身は向うむきにしているのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せたひとももほどもある腕をもっている体格の、腕力の強い母親だった。ドサリと背中へ乗りかけられてしまうと、跳返はねかえすことなどは出来なかった。
「あいつは馬鹿力を持っています。彼奴きゃつの腕にさわることができても、それこそ工場のベルトに触れでもしたかのようにイヤという程、跳返はねかえされるばかりです」
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
敵は何とも答えずに、力の限り跳返はねかえそうともがいたが、柔道を心得たる忠一は急所を押えて放さぬので、敵は倒れながらに刃物を打振うちふって、下から忠一ののどを突こうと企てた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それは、自分でもうともすることが出来ない性分です。誰かから抑えられると、その二倍も三倍ものはげしさで、跳返はねかえしたいような気になるのです。それが、妾の性格の致命的フェータルな欠陥かも知れません。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
敵は苦しそうに唸ってもがいていたが、もうかなわぬと覚悟したのであろう、一生懸命に跳返はねかえすと同時に、右の手に握ったる刃物を左に持換もちかえて、我と我が胸を力任せにえぐると、鮮血なまちさっほとばしって
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七兵衛も進んで主人の急を救おうとすると、最初はじめの小さい男が這って来て七兵衛の足をすくった。彼は倒れながらに敵の腕を取って、一旦は膝下しっか捻伏ねじふせたが、なりに似合わぬ強い奴でたちまち又跳返はねかえした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)