賑々にぎにぎ)” の例文
その夜の団欒だんらんは、水入らずだった。例を破って、食膳は、病妻の枕元に運ばれ、子等をじえて、灯影ほかげ賑々にぎにぎと、一しょに喰べた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私たちは三人で小舟に乗って、沖合はるかに漕ぎ出して行くと、海は一面に美しくいで、餌をあさる海鳥の啼声なきごえ賑々にぎにぎしかった。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
なべ料理は、気のおけぬごく懇意こんいな間柄の人を招いて、和気あいあい、家族的に賑々にぎにぎしくつきあうような場合にふさわしい家庭料理といえよう。
鍋料理の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
なんという賑々にぎにぎしい人だろう。人間としては、たった一人が入り込んで来たのに過ぎないが、四方がパッと明るくなるほどに陽気になりました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
中には笛太鼓の鳴り物入りで老幼男女の差別なく花やかな衣裳いしょうを着けながら市中を踊り回るという賑々にぎにぎしさで持ち切った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
となると、二号活字を思切つて使つた、誇張を極めた記事が、賑々にぎにぎしく埋めてある。フフンと云つた様な気持になる。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一緒に芝居見物に行って酔っ払っておそろいで賑々にぎにぎしく帰ってきて女房の部屋へは顔もださず、マダムの部屋で馬鹿笑いをしながら飲ませて貰っている。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
羽子板店に紙鳶たこ店はもちろん、神棚の祭具を売る店、餅網、藁のお飯ひつ容れを売る店、屠蘇とその銚子や箸袋を売る店、こういう正月向きの売店が賑々にぎにぎしく普通の売店に混り
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かくてしょうは母、兄弟らに護られつつ、絶えて久しき故郷の家に帰る。想えばここを去りし時のさびしく悲しかりしに引き換えて、今は多くの人々に附きまとわれ、賑々にぎにぎしくも帰れることよ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いと賑々にぎにぎしけれど今日は淋びしく、河面かわづらにはさざなみたち灰色の雲の影落ちたり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかしクリスマスは、街にはもっと賑々にぎにぎしくあふれていた。あらゆる店はクリスマス・セールの飾りつけに工夫を凝らし、いつどこにいても幾種類かのクリスマスのメロディが、同時に聞こえてくる。
一人ぼっちのプレゼント (新字新仮名) / 山川方夫(著)
そうして真岡の街は歓迎門が建ち、黄や赤や緑や紫の万国旗で賑々にぎにぎしく満飾されていた。つい一日前に摂政宮殿下の行啓を仰いだのであった。行啓気分が到る処に充ち満ちて、まるでお祭りであった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
こう表の飾りもつかず、ビラの文字が雨のふるたび流れてゆくのに、いつ賑々にぎにぎしく木戸が開くのか、こいつもおおかた幽霊だぜ、と通りがかりの職人などが笑っていました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御当地初御目見得はつおめみえ、長崎流曲独楽きょくごま廻し嵐粂吉あらしくめきち、近日、賑々にぎにぎしく小屋びらきつかまつりそうろう
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)