まかなひ)” の例文
丑松が転宿やどがへを思ひ立つたのは、実は甚だ不快に感ずることが今の下宿に起つたからで、もつとまかなひでも安くなければ、誰も斯様こんな部屋に満足するものは無からう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
予は少しく思ふよしあれば、其かうべで、せなさすりなどして馴近なれちかづけ、まかなひの幾分をきて与ふること両三日りやうさんじつ、早くも我に臣事しんじして、犬は命令を聞くべくなれり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まかなひは遙か半町も離れた二階下の臺所に行かなければ一人もゐない。病室では炊事すゐじ割烹かつぱうは無論菓子さへ禁じられてゐる。して時ならぬ今時分何しに大根卸だいこおろしこしらえやう。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まかなひの決算を見ると、この二週間の間にパンとチイズの間食かんしよくが、二度も生徒に支給されたことになつてゐるが、これはどうした事情ですかな? 私は、規則を點檢して見たのですが
宿といつても此家ここ普通なみの下宿ではない、ただ二階の二間ふたまを友人と共に借切つてまかなひをつけて貰つてるといふ所謂いはゆる素人下宿の一つである。自分等の引越して來たのはつい三ヶ月ほど以前まへであつた。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
女中奉公しても月にまかなひ付で四円貰へるから、お定さんも一二年行つて見ないかと言つたが、お定は唯うつむいて微笑ほほゑんだのみであつた。怎して私などが東京へ行かれよう、と胸の中で呟やいたのである。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)