角立かどだ)” の例文
私を連れて行かれたのは、角立かどだたないようにとのお心遣いだったかも知れません。その日には、それについてのお話はありませんでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
絶えずキョトキョトして、そわそわして安んじないばかりか、心にただれたところが有るから何でもないことで妻に角立かどだった言葉を使うことがある。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
仲の悪い二人を一室に会わせて仲が直れば宜いが、却て何かの間違から角立かどだった日には、両虎一澗いっかんに会うので、相搏あいうたんずばまざるの勢である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ついでながら、切り立ての鋏穴の縁辺は截然せつぜんとして角立かどだっているが、んで拡がった穴の周囲は毛端立けばだってぼやけあるいは捲くれて、多少の手垢てあか脂汗あぶらあせに汚れている。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
重太郎は眼に角立かどだててなじったが、男はいているのであろう、返事もせずに駈け出した。窟には母の姿が見えず、加之しかも怪しい男が出て来たのであるから、重太郎の不審はいよいよ晴れぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
角立かどだった冷ややかな顔つきと、きわめて丁重な態度と、首の所までボタンをかけた服と、燃えるような濃黄土色の長いだぶだぶのズボンをはいていつも組み合わしてる大きな足だけだった。
じゃ幾の事はそうきめてどうか角立かどだたぬように——はあそう願いましょう。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
みずからかえりみてなおからば千万人といえども、吾れかんとの独立自重じちょうの心は誰人たれびとにもなくてはならぬけれども、いわばどちらでも好いことに角立かどだてて世俗に反抗するほどの要なきものが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
君の住む岩内の港の水は、まだ流れこむ雪解ゆきげの水に薄濁るほどにもなってはいまい。鋼鉄を水で溶かしたような海面が、ややもすると角立かどだった波をあげて、岸を目がけて終日攻めよせているだろう。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何んだかこう角立かどだって、大業おおぎょうに見せるのが不愉快なのです。
それでいて角立かどだたしい気持ちがあるのではみじんもない。
不規則に角立かどだった音波は噪音そうおんとして聞かれ、振動急速な紫外線は目に白内障をひき起こす。その何ゆえであるかは完全には説明されていないではないか。いわんや光の量子説の将来は未知数である。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たとえば化学的分子の立体的構造を考えていた化学者や渦動原子かどうげんしの結合を夢みていた物理学者にはルクレチウスの曲がったり角立かどだったりした元子は必ずなんらかの暗示を与え得たであろうと思われる。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)