親戚みうち)” の例文
新吉はふと自分の影が寂しいように思って、「己の親戚みうちと言っちゃ、まアお作の家だけなんだから……。」と独り言を言っていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
イヤイヤあれはれいによりて人間にんげんどもの勝手かって仮構事つくりごとじゃ。乙姫様おとひめさまけっして魚族さかな親戚みうちでもなければまた人魚にんぎょ叔母様おばさまでもない……。
あのお婆さんは親戚みうち公爵夫人コンテツス。今日ここの市長の嫁になつて居る娘を訪ねに来たのです。今日の汽車は間が悪くつてお気の毒でしたわね。
素描 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
何でも親戚みうちの者が播州垂水たるみで結婚をするその式に顔出ししなければならないので、時間の都合で岸和田から垂水まで自動車を走らせる事になつた。
群集もちりぢりになって、親戚みうちの者ばかり残りました頃、父親は石の落ちたように胸をさすりながら
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
沼間夫人が親戚みうちに優しくするなどということは、奇蹟でも起こらなければ有りえぬことだからである。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その日よりして三好の家に辰弥の往復はいそ打つ波のひまなくなりぬ。善平との間はさながら親戚みうちのごとくなれり。家内の皆々は辰弥のこのたびの事件におもなる人なることを知りぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
最初は考えていなかった岡本だの、岡本の子供のはじめだの、その一の学校友達という連想から、また自分の親戚みうちの方へ逆戻りをして、おい真事まことだの、いろいろな名がたくさん並べられた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戸川氏は一しきり狸の飼養を奈良公園の当局者に勧めて置いて、急に親戚みうちにでも耳打をするやうに低声こごゑになつて
こうした仲のむつまじい時、よく双方の親兄弟のうわさなどが出る。親戚みうちの話や、自分らのちいさい折の話なども出た。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
西山氏は顔を絵具皿のやうに真紅まつかにした。かないの里方に立派なうちを持つたものは、どうかするとよくそんな顔をするものだ。——だがまあ我慢するさ、何事も親戚みうちの事だから。
役人を親戚みうちたないやうに、神様をも伯父さんに持合はせてゐないから、はつきり見通した事は言はれないが、世の中には随分巴里の宝石屋荒しのやうな事は少くないと思ふ。