見染みそ)” の例文
それが、女学校を卒業した記念か何かで、母親に連れられて、S市を見物に来ているのを、わしは散歩の途中で、深くも見染みそめてしまったのだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ところで、若樣は、花見船でお糸さんを見染みそめたといふことを聽いたが、その時お前さんはお供をして居たさうだね」
田舎にはめづらしいほどの別嬪べつぴんで、足利に行つて居る間に、鹿児島生れで、其土地の中学校の教師をしてゐた男に見染みそめられて、無理に懇望されてとついで行つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
この「朝の眼」が十六歳のとき、スコットランド貴族で、インド駐在軍司令部のキャンベル・マクリイ卿が、祭壇に踊っている彼女を見染みそめてひそかに神殿から奪い去った。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
以太利イタリーのさるヴァイオリニストが旅行をして、しばらく、ポートサイドに逗留とうりゅうしておりました時、妙齢の埃及エジプトの美人に見染みそめられまして親しき仲となったそうでございます。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は汗の出るほど耻入はじいります、実はくより娘があの孝助殿を見染みそめ、恋煩こいわずらいをして居ります、誠に面目めんぼくない、それをサばゞアにもいわないで、ようやく昨夜になって申しましたから、なぜ早く云わん
細面ほそおもてきれいな女でした、その女が、下谷したやに住んでいる旗本はたもとの三男に見染みそめられて、たってと所望しょもうされて、そこに嫁に往ったところが、その男がすぐやまいで亡くなったので、我家うちへ帰って来ているうちに
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いつか互に見染みそめもし見染められもしたと云う次第なのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その梵論字が志保田の庄屋しょうや逗留とうりゅうしているうちに、その美くしい嬢様が、その梵論字を見染みそめて——因果いんがと申しますか、どうしてもいっしょになりたいと云うて、泣きました
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
上總國かずさのくに勝浦一萬一千石の領主植村土佐守、遠乘りの歸りお樂の茶店に立寄り、お菊を見染みそめて、下屋敷へ入れることになり三百兩の支度金まで出しましたが、それほどの事が、いくら隱しても