要慎ようじん)” の例文
空襲を要慎ようじんしてということだったけれど、それにしても、それほど深刻な顔をしなくてもいいだろうにと、仏は思ったことである。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
台の前部ぜんぶわらが散らしてあるのは流れる血を防ぐ要慎ようじんと見えた。背後の壁にもたれて二三人の女が泣きくずれている、侍女ででもあろうか。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三吉があわてて電灯の灯の方へ顔をむけると、気のいい人の要慎ようじんなさで、白粉おしろいにおいと一緒に顔をくっつけながら
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
自分でも要慎ようじんしてたんは必ず鼻紙へ取って決してやたらとてなかった。殊に露西亜へ出発する前一年間は度々病気になって著るしく健康を損じていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
他人の家の離座敷を借りて居る為に、要慎ようじんはいいようなものの、赤坊をかかえて一晩ひとりで留守をする事は、彼女に取っては、可なりの、苦痛に相違なかった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
まるで犬は獲物をぎつけた時のように、うずくまりながら足を留めて、いかにも要慎ようじん深く、忍んで進みました。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「けれど今度の犯人は、早速足がつかないように要慎ようじんして、抜け目なく立廻ったんでしょうね」
そして風がひどいために常よりは早く雨戸を閉め切って、戸と戸の溝に通じた穴に釘を差し込んだ。その要慎ようじんは、この寂しい町へ住むようになった彼女の盗賊に対する心配のためであった。
不幸 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
M君よりは、はるかに要慎ようじん深い扮装いでたちながら、私はいつもの心で答えた。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
「ところで、家の中の要慎ようじんはそんな生やさしいことじゃ無い」
そうだ、要慎ようじんのために藤尾を町人風の恰好かっこうにするほうがいい。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
誰が聞いても怪しいやつですが、そのとき博士は大いに要慎ようじんして、自分の持っている鞄をうばわれまいとして、一生懸命かかえこんだそうです。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、秘密を気づかれないように要慎ようじんしながら、近所の人にそれとなく様子を訊ねると
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
遠慮していれば、いつまでたっても、奥へ通れない。さあ遠慮なく、こうして突きとばすですな。しかし懐中物かいちゅうものだけは要慎ようじんしたがいいですぞ。
縞馬みたいな刑事が煙草の火を借りに来て、この辺は物騒だから要慎ようじんするように注意して去った。
編集長「ああそうか。要慎ようじんして行きたまえ。汚い奴がうようよしているからね」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、こっちから声をかけると、魚戸は要慎ようじんぶかい腰付で卓子につかまりながら
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)