虞美人草ぐびじんそう)” の例文
夏目先生の虞美人草ぐびじんそうなども、その時その中に交っていたかと思う。が、中でもいちばん大部だったのは、樗牛全集の五冊だった。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
虞美人草ぐびじんそうのつぼみははじめうつ向いている。いよいよ咲く前になって頭をもたげてまっすぐに起き直ってから開き始める。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
取出したのを見ると、虞美人草ぐびじんそうのような見事な朱塗しゅぬり、紫の高紐たかひもを結んで、その上に、いちいち封印をした物々しい品です。
紫に描いた。すべてがしろかねの中からえる。銀の中に咲く。落つるも銀の中と思わせるほどに描いた。——花は虞美人草ぐびじんそうである。落款らっかん抱一ほういつである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
草あやめの外には、芍薬しゃくやく、紫と白と黄の渓蓀あやめ薔薇ばら石竹せきちく矍麦とこなつ虞美人草ぐびじんそう花芥子はなげし紅白こうはく除虫菊じょちゅうぎく、皆存分に咲いて、庭も園も色々にあかるくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
両者揃えば奮発する。「虞美人草ぐびじんそう」はいやになった。早く女を殺してしまいたい。熱くってうるさくって馬鹿気ている。これインスピレーションの言なり。以上。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
或る女——寺に虞美人草ぐびじんそうの種子をくと檀家だんかに死人が絶えないという伝説を信じている女——などは
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
虞美人草ぐびじんそうの甲野さんが糸子に対する上品な、優しい気持ちこそわれらの慕うところである。私は君との友情のみはあらゆる手段を超越せる尊厳なる目的そのものだとしか思えない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
○床の間に虞美人草ぐびじんそうを二輪けてその下に石膏せっこうの我小臥像しょうがぞうと一つの木彫の猫とが置いてある。この猫はうずくまつて居る形で、実物大に出来て居つて、さうして黄色のやうなペンキで塗つてある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
千駄木時代は先生の有名になり始めからだいたい有名になりきるまでの時代で、作品から言っても「猫」から「虞美人草ぐびじんそう」へかけての時代である。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
虞美人草ぐびじんそう』の藤尾の性格は、我儘わがままに育ったの強い所から来たのか、自意識の強いモダーンな所から来たのかと云うのですか。それは両方にまたがって居る。
予の描かんと欲する作品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう一人、お篠の妹のお秋は、ゆくゆく五左衛門の身の辺りの世話をするはずでしたが、まだ目見得中で母屋に泊っており、これは十九の虞美人草ぐびじんそうのような娘でした。
「『虞美人草ぐびじんそう』は?」
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
虞美人草ぐびじんそう」を書いていたころに、自分の研究をしている実験室を見せろと言われるので、一日学校へ案内して地下室の実験装置を見せて詳しい説明をした。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
先生の「虞美人草ぐびじんそう」の中に出て来るヴォラプチュアスな顔のモデルがすなわちこれであるかと思われる。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
劇場テアトロの中のまるい広場には、緑の草の毛氈もうせんの中に真紅の虞美人草ぐびじんそうが咲き乱れて、かよわい花弁がわずかな風にふるえていた。よく見ると鳥頭とりかぶとの紫の花もぽつぽつ交じって咲いていた。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それはコスモスと虞美人草ぐびじんそうとそうして小桜草こざくらそうである。立ちあおいや朝顔などが小さな二葉のうちに捜し出されて抜かれるのにこの三種のものだけは、どういうわけか略奪を免れて勢いよく繁殖する。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)