なぎ)” の例文
猶武士は鐵杖てつぢやうにてあたるを幸ひ打据うちすゑたり因て雲助共はかしらを打れいため或は向うずねなぎられて皆々半死半生になり散々にこそ逃去けれ武士は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
意表にでて後ろの源十郎へ一なぎくれたかと思うと、このときはもう慕いよる半月形の散刀に対して、無念無想むねんむそう、ふたたび静にした不破ふわの中青眼。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
不吉の前兆のような、無気味なしずかさが、原っぱの上全体に押しかぶさって、夕靄が、威圧するように、あたりをめていた。そして颯々さつさつと雑草をなぎ黝黯あおぐろい風……。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
さっと、左膝を雪の中へ曲げるが早いか、全身の力を右手にこめて、ぴゅーっと、振った片手なぎ——
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
一刷ひとはけ、なぎの見えるあたりから、雨雲の滲んだ空へかけて、暁方あけがたの小雨が、山では雪になっていたのか、染め上げたように、まっ白になすられて、見るからうそ寒むい。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
だが、そこのひしめきは無益である、雲霧は、ぱっと、台所から家の中へ駈けこんだ。すがる外記の肩先へ、梯子段の途中から、チカッと、後ろなぎに、脇差の光が走った。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩壁の白いなぎを指しながら、話のいとぐちを引き出したところが、あすこは嘉門次が、つい去年、山葵わさび取りに入りこんで、始めて登ったところで、未だ誰もその外に、入ったものはないと言うので
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
片手なぎに、身体も、刀も、廻転するくらいに払ったのが、見事、胴に入った。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
唐檜フィヒテも交じる樅の林の、下草を分けてうねうねと雲につづく、と、右側に氷河の裾は、いつのまにか眼下になって、ある時は岩の崩れたなぎを横ぎって、やはり千鳥掛けに、上へ上へと登ってゆく。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)