うてな)” の例文
暗道ポテルンの光沢のある橄欖石の側壁が、そこだけ花のうてなのようなかたちに穿れ、その中にあふれるばかりの水をひっそりとたたえていた。水。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さはいへ大麦の花が咲き、からしの花も実となる晩春の名残惜しさは、青くさい芥子のうてなや新しい蚕豆そらまめの香ひにいつしかとまたまぎれてゆく。
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼は自分の花粉を花のうてなから切り離して、ほつかり水面に浮き揚らせる。花粉はそこらを漂ひ歩いて雌花をさがしもとめる。
つぼのごとく長いはなびらから、濃いむらさきが春を追うて抜け出した後は、残骸なきがらむなしき茶の汚染しみ皺立しわだてて、あるものはぽきりと絶えたうてなのみあらわである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひとり言しながら、ぢつと見てゐるうちに、花は広いうてなの上に乗つた仏の前の大きな花になつて来る。其がまた、ふつと目の前のさゝやかな花に戻る。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
その玉のような白い花は、御釈迦様の御足おみあしのまわりに、ゆらゆらうてなを動かして、そのまん中にある金色のずいからは、何とも云えないい匂が、絶間たえまなくあたりへあふれて居ります。
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もぐり入れ、花のうてなに、4675
さはいへ大麥の花が咲き、からしの花もとなる晩春ばんしゆんの名殘惜しさは青くさい芥子のうてなや新らしい蠶豆そらまめの香ひにいつしかとまたまぎれてゆく。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひとり言しながら、じっと見ているうちに、花は、広いうてなの上に乗った仏の前の大きな花になって来る。其がまた、ふっと、目の前のささやかな花に戻る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
博士は、岩うてなのそばへひざまずいて掌で水をすくって飲んだ。すこしばかり硅素を含んだ氷のような水が、カラカラにかわききった咽喉の奥に痛烈にしみとおっていった。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小羊ラムの皮を柔らかになめして、木賊色とくさいろの濃き真中に、水蓮すいれんを細く金にえがいて、はなびらの尽くるうてなのあたりから、直なる線を底まで通して、ぐるりと表紙の周囲をまわらしたのがある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
口あけばちやちやとのみいふ子に見せてうてなかなしきあちむきの梅
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
二階にこやりて久し向日葵の今は垂れたるうてなのみ見ゆ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うてなをつつく。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)