なや)” の例文
水々しいうおは、真綿、羽二重のまないたに寝て、術者はまなばしを持たない料理人である。きぬとおして、肉を揉み、筋をなやすのであるから恍惚うっとりと身うちが溶ける。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
合戦ならば、その陣心に乱れを起さしてを打つのと同じだ。そのために武蔵は、相手を怒らせてはなやし、萎しては怒らせ、再三それを繰返してからいざと太刀を取っている。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ときよりもはやくぢり/\とつてくのを、なやして、見詰みつめるばかりで、かきものどころ沙汰さたではなかつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手をなやし、足を折り、あの、昔田之助たのすけとかいうもののように胴中どうなかと顔ばかりにしたいのかの、それともその上、口も利かせず、死んだも同様にという事かいの。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その後難こうなん憂慮うれいのないように、治兵衛の気をなやし、心を鎮めさせるのに何よりである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万世橋向うの——町の裏店うらだなに、もと洋服のさい取をなやして、あざとい碁会所をやっていた——金六、ちゃら金という、野幇間のだいこのようなはげのちょいちょい顔を出すのが、ご新姐、ご新姐という
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)