芝浦しばうら)” の例文
田中君はもうその時には、アアク燈に照らされた人通りの多い往来を、須田町すだちょうの方へ向って歩き出した。サアカスがあるのは芝浦しばうらである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
前にして遠く房總ばうそうの山々をのぞみ南は羽田はねだみさき海上かいじやう突出つきいだし北は芝浦しばうらより淺草の堂塔迄だうたふまではるかに見渡し凡そ妓樓あそびやあるにして此絶景ぜつけい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
聯合艦隊が芝浦しばうらに集合して、昼は多勢の水兵が帝都の街頭に時ならぬユニフォームの花を咲かせ、夜は品川湾の空に光芒こうぼうの剣の舞を舞わせた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
芝浦しばうらの月見も高輪たかなわ二十六夜待にじふろくやまちも既になき世の語草かたりぐさである。南品なんぴんの風流を伝へた楼台ろうだいも今はたゞ不潔なる娼家しやうかに過ぎぬ。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
例えば、芝浦しばうら埋立地うめたてちに、鉄筋コンクリートで出来た背の高い煙突えんとつがあったが、そこからは、一度も煙が出たことがないのを、附近の人は知っていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
東京の芝浦しばうらだとか、大阪だとか、時には北海道の小樽おたるまで出かけたり、また時によっては九州の港であったり、瀬戸内海の島のさびしい村であったり、とにかく
おるすばん (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「うちだか、どこだか知らねえ。おれは芝浦しばうらで頼まれたんだよ」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
場所は芝浦しばうら、海は東京湾である。
芝浦しばうらの月見も高輪たかなわ二十六夜待にじゅうろくやまちも既になき世の語草かたりぐさである。南品なんぴんの風流を伝えた楼台ろうだいも今はただ不潔なる娼家しょうかに過ぎぬ。
明日はちょうど一月に一度あるお君さんの休日やすみびだから、午後六時に小川町おがわまちの電車停留場で落合って、それから芝浦しばうらにかかっている伊太利人イタリイじんのサアカスを見に行こうと云うのである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
芝浦しばうら埋立地うめたてちも目下家屋の建たない間は同じく閑地として見るべきものであろう。現在東京市内の閑地の中でこれほど広々とした眺望をなす処はにあるまい。
一つは夕立晴れたる夏の午後とおぼしく、辻番所立てる坂の上より下町したまちの人家と芝浦しばうら帆影はんえいまでを見晴す大空には忽然こつぜん大きなる虹ななめに勇ましく現はれいでたる処なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)