良人りょうじん)” の例文
唯の夫婦でも強い細君は弱い良人りょうじんの鼻綱を取る。家庭生活も優勝劣敗を免れない。主人は外へ出て稼ぐ丈け歩が好いようなものゝ
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
他の良人りょうじんは彼等の妻の墓を飾るに菫菜草すみれそう薔薇花ばらのはなとを以てするなれど我がパマカスはポーリナの聖なる遺骨を湿うるおすに慈善の香乳こうにゅう
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
近くたとえを取り、今日の婦人女子をして、その良人りょうじん父兄の品行を学ぶことあらしめたらばこれを如何いかんせん。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
当時全盛に全盛を極めたる重井の虚名に恋々れんれんして、つい良人りょうじんたり恩人たる岡崎氏を棄て、心強くも東京にはしりて重井と交際し、果はその愛をぬすみ得たりしなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
(こんなことに馴れ切っているのかしら、それともむを得ぬ外出先なのだろうかしら)などと、新子は去った夫人と残っているご良人りょうじんとのことを等分に考えていた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
夫の好むもの、でなければ夫の職業上妻が知っていると都合の好いもの、それらを予想して結婚前に習っておこうという女の心がけは、未来の良人りょうじんに対する親切に違なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一人の夫人の忠実な良人りょうじんという評判があって、品行方正を標榜ひょうぼうしていた源左大将であったが、今は女二にょにみやに心をかれる人になって、世間体は故人への友情を忘れないふうに作りながら
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
出入ではいり送り迎えは欠かさないが、着替えの手伝いまでしてくれる時代はもううに過ぎ去っている。結婚して六七年になれば細君も良人りょうじんを理解する。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ああ余は良人りょうじんを捨てざるべし、孤独彼を思うの切なるより余の身も心も消え行けどこの操をば破るまじ、よし余は和解のきたるまでこの浮世にはながらえずとも
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
良人りょうじん五年の中風症ちゅうふうしょう、死に至るまで看護怠らずといい、内君ないくん七年のレウマチスに、主人は家業のかたわらに自ら薬餌やくじを進め、これがために遂に資産をも傾けたるの例なきにあらず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
子供のために、げて来り給えなどいとめて勧めけるに、良人りょうじんとの愛に引かれて、覚束おぼつかなくも、舅姑きゅうこ機嫌きげんを取り、裁縫やら子供の世話やらに齷齪あくせくすることとなりたるぞ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
凡そ細君は良人りょうじんの見ていない時までもそう/\働くものでない。大将御帰館という頃合を見計らって襷をかける。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何時いつ良人りょうじんが余の心の深底しんていを悟らん時もありぬべし、貞婦の心の一念よりして彼の改むる時もやあらむ、最終まで忍ぶものは幸なり、余も余の神の助にて何をか忍び得ざらんや。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
見よ彼らが家庭の紊乱びんらんせる有様を、数年間すねんかん苦節を守りし最愛の妻をして、良人りょうじんの出獄、やれ嬉しやと思う間もなく、かえって入獄中の心配よりも一層の苦悶くもんを覚えしめ、淫酒いんしゅふけり公徳を害して
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
と妙子さんは何も当日から支配人の娘を鼻にかけたのでなく、単に良人りょうじんとして遇したのである。然るに清之介君は女房を支配人の令嬢として遇していたから
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
斯ういう夕暮には一入ひとしお良人りょうじんの帰宅が待たれるものである。然るに人の好い千吉君は例によってひとの鰹節役を勤めていると見えて、ナカ/\帰って来なかった。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
良人りょうじんたるものは毎日洋服のポケットを検められていると覚悟する方が安全である。
或良人の惨敗 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この階級の奥さま方は良人りょうじんの和装によって自分達の好尚が鑑定されると思っているから、見立てに人知れぬ苦労をする。和服を着せて良人を出すのは先方の家の細君への一種の示威運動である。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と夫人は乳飲み子を抱き直して、良人りょうじんをキッと見据えた。折から
或良人の惨敗 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)