船暈ふなよい)” の例文
船暈ふなよいは土を踏むとすぐ忘れたようになおる。ここには魏の陸上本営があるので、そこへ入ったときはもう平常の曹丕らしい元気だった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて彼がむむうとひと声うなったような気がしたので、さては船暈ふなよいだなと僕は思った。もしそうであれば、下にいる者はたまらない。
英語の先生のHというのが風貌魁偉ふうぼうかいいで生徒からこわがられていたが、それが船暈ふなよいでひどく弱って手ぬぐいで鉢巻してうんうんうなっていた。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
といつて船暈ふなよいはたまらないが、度々行くうちには船暈など先づ先方から逃げてゆく、そこが又沖釣りの爽快さである。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
彼等は船暈ふなよいでへとへとになっている上に、あてがわれた食糧は、まる四日間にすっかり食い尽してしまって、今は、石のように堅くなった麺麭パンの皮や
お玉はこの舟に乗ってから、芸名のお玉を改めて本名のお君に返りました。慣れぬ船の中で、船暈ふなよいに悩まされ通しであったのがこのお君でありました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
先年練習艦にて遠洋航海の節は、どうしても時々船暈ふなよいを感ぜしが、今度は無病息災われながら達者なるにあきれ候。しかし今回は先年に覚えなき感情身につきまとい候。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そして、あちらこちらの船暈ふなよいの音を聞きながら、波の揺籃に、すこぶる健康な眠りに陥った。
ときどき彼が船暈ふなよいを感じている人のような眼ざしを夫人の上に投げるのに注意するがいい。
聖家族 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
この臭気が軽い船暈ふなよいで余程強められたのだから、航海はたしかに有難からぬものになった。
不思議な合唱が——舞台の娘たちの死物狂いのたか調子と、それに呼応する見物席のみごとな怒号が——ワンワンと頭をしびらせ、小屋を出てしまっても、ちょうど船暈ふなよいの感じで足許あしもとをフラフラさせた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
このわけを、すこし拡大して譬えによって述べて見ますと、向うに港を出帆して行く汽船があります。岸で二人の人が見ております。一人の人は船暈ふなよいする人ですが、一人の人は船に達者の人であります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
船暈ふなよいの研究をするためである。
登るときは牛のようにのろい代りに、下り坂は奔馬のごとくスキーのごとく早いので、二度に一度は船暈ふなよいのような脳貧血症状を起こしたものである。
箱根熱海バス紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かごに酔ったのは船暈ふなよいより気もちが悪い。酔い癖のある者は駕の戸をあけて乗るがいい。ムカムカ頭痛がしてきた時には、熱湯に生姜しょうがしぼり汁を入れて呑む。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相繋あいつなげばこういう日にも、船の揺れは少なく、士卒の間に船暈ふなよいも出ず、至極名案のようですが、万一敵に火攻めの計を謀られたら、これは一大事を惹起じゃっきするのではありますまいか
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつの間にか船首をめぐらせる端艇小さくなりて人の顔も分き難くなれば甲板かんぱんに長居は船暈ふなよいの元と窮屈なる船室にい込み用意の葡萄酒一杯に喉をうるおして革鞄かばん枕に横になれば甲板にまたもや汽笛の音。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さしもはげしかった、船の動揺もやんだと思うと、やがて、入口をポンとはねて、飛びおりてきた手下どもが伊那丸のからだを上へにないあげ、すぐ船暈ふなよいざましの手当にとりかかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うごいているのは船暈ふなよいに悩んでいる者だけであった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)