自棄酒やけざけ)” の例文
娘の留守に自棄酒やけざけあふつた金五郎が、夜中にフラフラとお六を殺したくならないものでもあるまい——と、う萬七親分は言ふんだ
いねが実家へ相談にゆくともうその顔を見ただけで逃げ腰の兄の態度にいねを憤らせたり、時には重吉を自棄酒やけざけに浸らせたり
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
その気落ちがしてしまったためだろう、ひと月あまり呷りつづけた自棄酒やけざけのあと、バッタリ倒れて、とたんにこんな病気がでてしまったのだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
そしてまだ陽を見たことのないクリーム色の(十二さく)そして彼女の完全な(それは、悲しい、思っただけでも胸のうずくような)離反! 自棄酒やけざけ
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
と、笑いながら酔漢よっぱらいのように身体を自由にぐらぐらさせて歩きたくなって来た。自棄酒やけざけを飲みたくなった。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
今日けふらもろ、かどみせ自棄酒やけざけんでおこつてたつけぞ」一人ひとり自慢じまんらしくあらた事實じじつ提供ていきようした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
自棄酒やけざけをのんで、血のあがったようなことを口走ってはいたが、まさかと、たかをくくっていたお吉は、びっくりして、夜具のまわりや押入れの中を見たが、お米は、もう帰らぬつもりで
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……自棄酒やけざけを飲んでますます落ちぶれて行くところ……
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
娘の留守に自棄酒やけざけあおった金五郎が、夜中にフラフラとお六を殺したくならないものでもあるまい——と、こう万七親分は言うんだ
その日その日を遊侠のしたい三昧ざんまい、身に勝ちすぎた非望に苦艱いたすより、気儘気随きままきずいの世渡りこそ、太く短かく面白しと浮世を悟り候てより、流るる歳月を知らず、自棄酒やけざけの味も忘れかねつつ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このに臨んでも、自棄酒やけざけが手伝うせいもあるでしょうが、捨鉢な洒落しゃれを言っております。次の駄菓子屋は留守。——
「それだからいけないよ。飲むさ。頃合に飲んでごらん。迎え酒というやつだ。だが、自棄やけはいけない、江戸へ行って、浜町の別宅に納まってもらっても、自棄酒やけざけ御法度ごはっとということにしてもらいたいね」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「此通りだ、一人で自棄酒やけざけか何んか飮んでゐるところを、そつと廊下に忍び込んで、障子越しに一と思ひに突つ込んだのだ。死骸を見るとわかるが、傷は左肩胛骨ひだりかひがらぼねの下で、胸へ突き拔ける程の手際だ」
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)