臆病風おくびょうかぜ)” の例文
なお身体の発育上、何歳より何歳ごろまでが智力のことさら伸張する時代であろう。そのころは臆病風おくびょうかぜの最も強く吹く期節きせつとなろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
呂宋兵衛の辞退をきくと、半助は、だれも刑場けいじょうへでると、一しゅ鬼気ききにおそわれる、その臆病風おくびょうかぜ見舞みまわれたなと、苦笑くしょうするさまで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
バッハはもちろん敵に背後うしろを見せなかったが、挑戦者なるマルシャンの方が、いざという間際まぎわになって臆病風おくびょうかぜに誘われて姿を隠してしまった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ともにして、目的に邁進すると。ははあお前は、南シナ海のあおい海の色をみて、きゅうに臆病風おくびょうかぜに見まわれたんだな
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白は余りの恐ろしさに、思わずえるのを忘れました。いや、忘れたばかりではありません。一刻もじっとしてはいられぬほど、臆病風おくびょうかぜが立ち出したのです。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
の位でとめられるですかね」またそろ/\臆病風おくびょうかぜが吹いて来た余は、右手にかけて居る運転手に問うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし、勇敢なフロスト少将が第一番に戦死したものだから、さすがのライオン戦車隊も、一時、臆病風おくびょうかぜにかかって、とうとう攻撃ののぞみがなくなってしまった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
私はにわか臆病風おくびょうかぜに誘われて、成る可く跫音あしおとを立てないように恐る恐るその人影に附いて行った。人影は相変らず三味線を弾きながら、振り向きもせずにとぼとぼと歩いている。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おれは何も恐がるわけじゃねえし、臆病風おくびょうかぜに誘われたわけでもねえが、こうなっちゃもう仕方がねえ、うっかりするとこちらまで穴にはまるだけだ。いきりたつなよ。俺たちといっしょにこい。
「や、それもそうだ。命あっての物種だ」と駒越左内も臆病風おくびょうかぜ
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「張郃張郃。初めの勢いもなく早や臆病風おくびょうかぜにおそわれたか。帰り途を案じているのか」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ははあ、臆病風おくびょうかぜに吹かれたね」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
臆病風おくびょうかぜにさそわれてきたのだろう。江戸表にいるうちは、貴様も吾々と合体がったいして、どこまでも、法月弦之丞をつと誓い、また、万吉も生かしてはおけぬとののしっていたではないか」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行くと、返書もしてあるのに、その日になって、おれが姿を見せなかったら、臆病風おくびょうかぜにふかれたぞと、満座で笑いどよめくだろう。亡父ちち良持よしもちの恥だ。おれは坂東平氏の総領だ。行かいでか
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とどなりかえしたが、ガサガサ……とこしの下の馬糧のワラがくずれるとともによろついて、もう蛾次郎の臆病風おくびょうかぜ、あたまの上へいつ落ちてくるかわからないてきのかわしかたをかんがえていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここまで来て、俄な臆病風おくびょうかぜとは何事か」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)