腕捲うでまく)” の例文
帶し段織だんおり小倉の大縞おほじまなる馬乘袴うまのりばかま穿うがち鐵骨の扇を持て腕捲うでまくりなしたる勢ひ仁王の如き有樣ゆゑ番頭久八アツと云ておく逃入にげいらんとするを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
屁十は腕捲うでまくりをした。しかし蚊のすねのように細くて、乾からびた貧弱な腕だから、腕捲りをしても勇ましくはみえなかった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それでも瀬を造って、低い処へ落ちる中に、流れて来たものがある、勇美子が目敏めざとく見て、腕捲うでまくりをして採上げたのは、不思議の花であった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分は行李をからげる努力で、顔やら背中やらから汗がたくさん出た。腕捲うでまくりをした上、浴衣ゆかたそでで汗を容赦なく拭いた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
忽ち多くの病室へつたはつて、患者は総立そうだち。『放逐してしまへ、今直ぐ、それが出来ないとあらば吾儕われ/\こぞつて御免を蒙る』と腕捲うでまくりして院長をおびやかすといふ騒動。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
貝原は宮大工上りの太い手首の汗をカフスににじませまいとして、ぐっと腕捲うでまくりして、煽風器せんぷうきに当てながら、ぽつりぽつり、まだ、通しものの豆をんでいる。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これを銀之助の五分刈頭、顔の色赤々として、血肥りして、なりふりも関はず腕捲うでまくりし乍ら、はなしたり笑つたりする肌合に比べたら、其二人の相違は奈何どんなであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)