聳立そばだ)” の例文
狂画葛飾振の図中には痩細やせほそりしあし、肉落ちたる腕、聳立そばだちたる肩を有せる枯痩こそうの人物と、かたちくずるるばかり肥満し過ぎたる多血質の人物との解剖を見るべく
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
誰がどこで幾らで売ったか、いつ、どこへ、幾らで買いに来たか、という噂について、日夜耳を聳立そばだてている農民に、こんな東京の話は聞かされたものではない。
青碧せいへき澄明ちようめいてん雲端うんたん古城こじやうあり、天守てんしゆ聳立そばだてり。ほりみづひしくろく、石垣いしがきつたくれなゐながす。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一六九下屋しもやの窓の紙にさと赤き光さして、あなにくや、ここにもしつるよといふ声、深き夜にはいとどすざましく、かみ一七〇生毛うぶげもことごとく聳立そばだちて、しばらくはりたり。
いよいよ日本海にずれば、渺茫びょうぼうとして際涯なく黒い海面は天に連なり、遥か左方は親知らず子知らずのへんならん、海波を隔てて模糊もこの間に巉巌ざんがんの直ちに海に聳立そばだっている様が見える。
かのマヂソン広小路に石柱の如く聳立そばだつ二十余階の建物をば夢の楼閣と見て過ぎ、やがて行手にユニオン広小路とも覚しき樹の繁り、その間を漏るゝ燈火を望み候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
滑るがように心持よく三十間堀さんじっけんぼりの堀割をつたわって、夕風の空高く竹問屋の青竹の聳立そばだっている竹河岸たけがしを左手に眺め真直まっすぐ八丁堀はっちょうぼり川筋かわすじをば永代えいたいさして進んで行った。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)