縫針ぬいばり)” の例文
細い長い竹竿たけざおのさきに、縫針ぬいばりくぎなどを附けたものさえ関東にはあった。それを垣根のすきからそっとさし入れて、縁端えんばなのお月見団子を取って行くのである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その一本の針を抜いて、武蔵はつぶさにあらためてみた。針の寸法は、ふつうの縫針ぬいばりと変らないし、太さも同様な物であるが、この針には、糸をとおす針穴がない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
過ぎすでに春琴も床を離れ起きているようになりいつ繃帯をけても差支さしつかえない状態にまで治癒ちゆした時分ある朝早く佐助は女中部屋から下女の使う鏡台と縫針ぬいばりとを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
サリーは縫針ぬいばりを十本ほどれて、もしこの縫針が余ったら、標本になる珍らしい蝶々をとってこれで背中をさしとおして持って帰ってちょうだいなと注文がしてあり、またジョン公は
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
このかみさんは旅の着物のほころびでも縫えと言って、紅白の糸をわざわざ亭主と二人して糸巻に巻いて、それに縫針ぬいばりを添えて岸本に餞別せんべつとしたほどこまかく届いた上方風の婦人であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
刀自はあっさりとそういったきりで、縫針ぬいばりの手を休めない。不足がちな足袋たびをせっせとつづくっているのである。そばに置いてある電熱器もとかく電力が不調で、今もえたようになっている。
お菊夫人の縫針ぬいばりの、人形ミシンのさざめごと。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
三、四本の乱杭歯らんぐいばの間を、でたりはいったりしているのは、たしかに四、五十本の縫針ぬいばりだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そッとさぐってみると、こいつはふしぎ、針だ、キラキラする二すんばかりの女の縫針ぬいばり
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(——針はいらんか、京の縫針ぬいばりじゃ。買うておかんか、木綿針、絹針、京の縫針)
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)