とじ)” の例文
と、云うと、準之助氏は、立って行って、ロビーの隅に置いてある、新聞のとじこみを持って来ると、広告欄を開けて指を辿り始めた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その僧は、柾木家から、寺へ、焼いてくれと持って来た由来書ゆらいがきを序文に書きたして、単なるとじものを一層書物らしくしてしまった。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど今宵こよいはなんだかその希望と野心の上に一つの新しい解決を得たように思われる。かれはとじの切れた藤村の「若菜集」を出してみふけった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
もっともこれは便宜上、仮に机と呼んで置くが、実は古色を帯びた茶ぶ台に過ぎない。その茶ぶ——机の上には、これも余り新しくない西洋とじの書物が並んでいる。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
貧弱なフランス語の知識しかないくせに、あの難解なコクトオを全然誤訳なく読破してゐるので驚いたが、それらの本は手垢にまみれとじが切れてバラ/\になつてゐるのであつた。
処女作前後の思ひ出 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
俊基は、かねて獄室で写しておいた法華経一巻と、自詠じえいの和歌のとじを、妻の小右京へ送りとどけてもらいたいということと
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は一トとじの和歌の草稿をふところに、冷泉為定れいぜいためさだの四条の住居を訪ねていた。為定は後に“新千載和歌集”を撰した当代著名な歌人である。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩木川の主水しゅすいを中心とする津軽平野の治水策であった。彼が寝ずに書いた献言書は、半紙七十枚とじで四冊もあった。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしの料紙筥りょうしばこの底をさがしてごらん。そなたの父のお書きなされたとじものが二帖にじょうある。風を通したこともないから、もう虫が蝕っているかもしれません。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腰の筆苞ふでづとから絵筆を抜き、料紙とじを片手にして立ちむかうと、何と考えたか、八荒坊は、燕返りに飛びすさッて
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武者修行は、そういって、前の位置に坐りこむと、今度はすぐ矢立から筆を取り出し、半紙とじ懐中ふところ手帖を石の上にひろげて、ものを書くことに没頭しはじめた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうか」と、越前守は、お袖の名にも、無表情のまま——「勘蔵。それに、お袖に関する書類が一とじあるな。その中へ、いま左右太の述べることを、明細に、書き入れてくれい」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええ。私の、聖書バイブルとじが切れてしまって、そこへ、ページのはしが飛びました」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『困りましたな。もうこの三月の初めにゃ、とっくに刷もとじも出来て、版元へ納まっている筈なんですぜ。——絵が出来ないばかりに、彫にもかかれず、手前どもの職人の手もいちまっているんです』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とじの書類と、一さつの書面で
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)