素湯さゆ)” の例文
(同妻。)の手巾ハンケチの端を、湯呑に落して素湯さゆいだ、が、なにも言わず、かぶりと飲むと、茶碗酒が得意の意気や、ほっと小さな息をした。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お種はいくらかあおざめて見えた。お仙のすすめる素湯さゆを一口飲んで、両手をひざの上に置きながら、頭を垂れた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こういう歌を大抵の人は、平凡である、稀薄である、素湯さゆを飲むようであると云うのであるが、その淡然たる声調の上に何処ともなく、情緒のにじみが潤い出て居る。
歌の潤い (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
のみたし御面倒樣めんだうさまながら素湯さゆ一ツ下されとこひけるにぞ其男は家内かないに云付心よく茶碗ちやわんへ湯を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お初は、湯呑に素湯さゆをついで、うまそうに飲んだが、気がついたように
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
七室ななま霧にみなかす初秋はつあきを山の素湯さゆめでしやまろうど
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
家七間霧にみな貸す初秋を山の素湯さゆめで来しやまろうど
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
昼からは茶屋が素湯さゆ売桜かな 菐言ぼくげん
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
英吉に問うと、素湯さゆを飲むような事を云う。枝も栄えて、葉も繁ると云うのだろう、松柏も古いから、そこで桐楊だと。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外し素湯さゆを呑やゝあつて十兵衞はひざ立直たてなほかくも我さへ居ずばつまや子に然まで難儀はかゝるまじ思ひ定めし事成ば何樣あつても己は居られぬ留守るす其方達そちたちまもつてくれといふ袖袂そでたもと取縋とりすがり此身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)