ペン)” の例文
何某なにがし。)とかのペンを持った一人が声を懸けると寝台の上に仰向あおむけになっていたのは、すべり落ちるように下りて蹌踉よろよろと外科室へ入交いりかわる。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男の姿に追ひ使はれたペンの先きには、自分の考へてゐる樣な美しい藝術の影なぞは少しも見られなかつた。唯男の處刑を恐れた暗雲やみくもの力ばかりであつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
感想のペンやまた人の前でも僕が少しも彼等のことを口にしないのが、狡いとか白々しいとかといふ風な感じを与へて二重に苛立たせた結果に赴いたと想像された。
喧嘩咄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そして店先でくるりと裾をまくり、あられもない弁天小僧をめこんだ。——なにもいちどきに崩れだしてござる、こう急がしくなってはペンが折れ申す、ひと休みして明日のことにいたそう。
そんな事に自分のペンすさませるくらゐなら、もつと他のペンの仕事で金錢といふ事を考へて見る、とさへ思つた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
卓子に相対して、薬局の硝子窓がらすまど背後うしろに、かの白の上服うわぎを着たのと、いま一人洋服を着けた少年と、処方帳をずばと左右に繰広げ、ペン墨汁インキを含ませつつ控えたり。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかかっていた翻訳のペンを留めて、請取って見ると、ちょっと心当りが無かったが、どんな人だ、と聞くと、あの、痘痕あばたのおあんなさいます、と一番はやく目についた人相を言ったので、直ぐ分った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立身たちみになり、片手を卓子につきながら、低声こごえで何か命じて、学生にそのペンを運ばしめていたが、ちょっと筆を留めて伺った顔にうなずいて見せて、光起はと立直った時、ふと、帯をしているお夏を見て
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)