きふ)” の例文
私たちが青年期にもつたやうな“きふを負うて”なんていふ感傷は、滑稽化してゐるにちがひない。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
僕は維也納ウインナの教室を引上げ、きふを負うて二たび目差すバヴアリアの首府民顕ミユンヘンに行つた。そこで何や彼や未だ苦労の多かつたときに、故郷の山形県金瓶村かなかめむらで僕の父が歿ぼつした。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
山田やまだます/\親密しんみつになるにけて、遠方ゑんぱうから通ふのは不都合ふつがふであるから、ぼくうち寄宿きしゆくしては奈何どうです、と山田やまだつてくれるから、ねがうても無きさいわひと、すぐきふをつて、郷関きやうくわんを出た
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其処の村校の尋常科を最優等で卒業した十歳の春、感心にも唯一人きふをこの不来方城下に負ひ来つて、爾後八星霜といふもの、夏休暇なつやすみ毎の帰省を除いては、全く此土地で育つた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
言葉の如く庫裡に入りてきふを卸し、草鞋わらぢを脱ぎて板の間に座を占め、寺男の給仕する粟飯を湯漬ゆづけにして、したたかに喰ひ終り、さて本堂に入りて持参の蝋燭を奉り、香を焚きて般若心経
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
きふふうしろ姿や花のくも
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)