秋波しゅうは)” の例文
最初はそれも控え目であったが、だん/\露骨になり、しまいには夫である自分の見ている前で、伸び上って秋波しゅうはを送ったりした。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と思うとその元禄女の上には、北村四海きたむらしかい君の彫刻の女が御隣に控えたベエトオフェンへしたたるごとき秋波しゅうはを送っている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
好むような男じゃなかった。此奴のラシャメンが我輩に秋波しゅうはを送る。しかし我輩よりも年が多い。無論年が少いからって何うのうのと思う我輩じゃない
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
花鳥は廊下で香以に逢うごとに秋波しゅうはを送った。あるゆうべ小稲が名代床みょうだいどこへ往って、香以がひとり無聊ぶりょうに苦んでいると、花鳥の使に禿かぶろが来た。香以はうっかり花鳥の術中に陥った。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
柏手かしわでを打って鈴を鳴らして御賽銭おさいせんをなげ込んだ後姿が、見ているにこっちへ逆戻ぎゃくもどりをする。黒縮緬くろちりめんがしわの紋をつけた意気な芸者がすれ違うときに、高柳君の方に一瞥いちべつ秋波しゅうはを送った。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このためここの白い看護婦たちは、患者の脈をしらべる巧妙な手つきと同様に、微笑と秋波しゅうはを名優のように整頓しなければならなかった。しかし、彼女たちといえども一対の大きな乳房をもっていた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
前には銀色の大きなお盆の上に、何やら洋酒を二、三本並べて薄いガラスのコップで飲んでいたが、私が起きたのを見ると酔いしれた眼で秋波しゅうはを送りながらからのグラスをさしつけた。私は払いけた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と云いながら、しまいには伸び上るような風をして御簾の方へ秋波しゅうはを送った。それから誰かゞ「東屋あづまや」の文句を謡ったり「我家わいへん」の文句を謡ったりした。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
宮子はミシェルの高雅な秋波しゅうはを回想しながら甲谷にいった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)