破目われめ)” の例文
扉の方へうしろ向けに、おおき賽銭箱さいせんばこのこなた、薬研やげんのような破目われめの入った丸柱まるばしらながめた時、一枚懐紙かいし切端きれはしに、すらすらとした女文字おんなもじ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どこかに破目われめの入った鐘のとして、変に響くでしょうけれども、よく兄さんを心得た私には、かえって習慣的な言説よりはありがたかったのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
破目われめから漏れおちる垂滴すいてき水沫しぶきに、光線が美しい虹を棚引たなびかせて、たこ唸声うなりごえなどが空に聞え、乾燥した浜屋の前の往来には、よかよかあめの太鼓が子供を呼んでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はついにあるとき、そっと爪立つまだちをして、ふすまの引き手の破目われめから中をのぞいて見た……。
その破目われめを舐めたとあるから、定めて舐めてなおしたのだろ、これらでこの竜王寺のはなしは、全く後世三井寺の鐘の盛名を羨んで捏造された物と判りもすれば、手箱から鐘が出て水に沈むとか
謹三は、ハッと後退あとずさりに退すさった。——杉垣の破目われめへ引込むのに、かさかさと帯の鳴るのが浅間あさましかったのである。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
磨出みがきだしたい月夜に、こまの手綱を切放きりはなされたように飛出とびだして行った時は、もうデロレンの高座は、消えたか、と跡もなく、後幕うしろまく一重ひとえ引いた、あたりの土塀の破目われめへ、白々しろじろと月が射した。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)