ます)” の例文
飯田氏ますに対しては、茶山は謝辞を反復して悃欵こんくわんを尽してゐる。江戸を発する前に、まのあたり告別することを得なかつたと見える。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ます々怪しいけれど、兎に角此の世に、此の時計の捲き方を知る人の有るは、調べあぐんで居た余の叔父に取っては非常の好都合に違い無い
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ますさんがどうしてそんなに零落おちぶれたものか私には解らない。何しろ私の知っている益さんは郵便脚夫であった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、つぎが“甘栗太郎”であり、つぎが“ますずし”であり、つぎが“甲子”である。——つぎが「ちんやバー」であり、つぎが「オガワ喫茶店」であり、つぎが「ちんや」であり、つぎが……
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ますかつそれ富貴ふうきしううらみなりと此言やむべなるかな享保のころ麹町二丁目に加賀屋かがや四郎右衞門とて間口まぐち十八間餘けんよ番頭ばんとう手代てだい丁稚でつち五十餘人其外下女下男二十人夫婦に子供こども都合つがふ七十人餘のくらしにして地面四五ヶ所を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
茶山が常陸巡をしてゐる間、蘭軒はおますさんが梅漬の料に菜圃の紫蘇を摘むのを見たり、蔵書の虫干をさせたりしてゐたと見える。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
蘭軒のしつ飯田氏ますは夫にさきだつて歿したので、蘭軒歿後には只側室佐藤氏さよが残つただけである。榛軒はいくばくもあらぬに、これにを与へて人に嫁せしめた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)