皚々がいがい)” の例文
枯木が密集した森林のあるところ、一望皚々がいがいの急勾配のところ、山と山との繋がりで馬のくらのようになったところ——を通りました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
三春の花香鳥語における、中秋の清風明月における、夏木の葱々そうそうたる、冬雪の皚々がいがいたる、一つとして美かつ妙ならざるなし。
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
仙ノ倉山の南で佐武流さぶりゅう山の北にある二千五十一米の峰を超えて、更に遠く白雪皚々がいがいたる白馬の連峰が、肉眼では天際に棚引く一抹の横雲かと怪まれた。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
桜の花の盛りだと云うに何んの兇兆ぞ、早朝から大片おおひらの雪が降り出して夜になっても降り止まず、既に三尺の上越すまでに皚々がいがいと積もっているのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひろいところに雪がはく皚々がいがいでしょう? それを白い障子のたった明るい室で見て、白い紙の字をよんだり書いたりする毎日だもの! ほんとにめくらになります
半井うしがもとをいでしは四時ころ成りけん、はく皚々がいがいたる雪中、りん/\たる寒気をおかして帰る。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
満月の皚々がいがいたる白銀の世界に、一点漆のように、真黒に息つくものを見て取ったのです。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
麦畑は四方の白雪皚々がいがいたる雪峰の間に青々と快き光を放ち、その間には光沢ある薄桃色の蕎麦の花が今を盛りと咲き競う、彼方此方かなたこなた蝴蝶こちょうの数々が翩々へんぺんとして花に戯れ空に舞い
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
皚々がいがいたる白雪山川を封じ了んぬ。筆端のおのずから稜峭りょうしょうたるまたむをざるなり」
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何物かこれ、この大都会を襲って、紛々皚々がいがいの陣を敷くとあやまたるる。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして一人の小姓を通知に側口わきぐちへ廻らせたあと、折柄雪も止んで、利休の有名な瀟洒たる庭園も満目白皚々がいがいたる下に埋もれて単なる綿の取り散らしにしか過ぎない光景を
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
皚々がいがいたる白雪を認めたことがあるから、其中の幾部分は万年雪となって残るであろうと思う。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
せめて身体からだ疲労つからせ、それによって心の苦痛悲哀を痲痺まひさせようと思い付いて、白皚々がいがいたる八ヶ嶽を上へ上へと登って行き、猪を見付ければ猪と闘い熊を見付ければ熊と争い
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
皚々がいがいたるヒマラヤの雪峰を照す光景は、光か何ともたとえようのない光景であります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
春花秋月、夏山の葱々そうそうたる、冬雪の皚々がいがいたる、これをみるものみな、その好風景に感ぜざるはなし。心神を養うの術、これをもって最も便なりとす。しかるに、風景は常に一様なるあたわず。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
また砲台ほうだいがあって守備の兵士も大分居ります。そこで我らは取調べを受けましてチスガリーという峰の頂上に上りましたが、ここから始めて白雪の妙光皚々がいがいたるヒマラヤの大山脈が見えます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
白雪皚々がいがいたる谷に山に松火の光煌々こうこうと一列を作ってうごめいて見えたが、それもしばらくの眺めであって、蜈蜙むかで穴へ隠れるがよう、対山の蔭へ追々全く火の光の隠れた頃、永い冬の夜も明け初めた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)