白根しらね)” の例文
白根しらね入りをした宇津木兵馬は例の奈良田の湯本まで来て、そこへ泊ってその翌日、奈良王の宮のあとと言われる辻で物凄い物を見ました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上州の吾妻あがつまの渓谷から草津を経て、白根しらね万座まんざ、更に渋峠しぶたうげを越して信州に出る間も段々避暑地として目をつけられて来てゐるやうです。
談片 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
やがて、小夜の中山、宇津うつの山を越えたとき、遠くに雪を頂いた山が見えた。名を尋ねると甲斐かい白根しらねというのであった。
青い岩床の凹みに波がよせてはいあがるようにはるか白根しらねの山の峡に灰色の雲が打ちつけている。暮れてきたので実をとりあげて燈明に火をともす。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
それが原因で世人に知られていないのである、また蓮華れんげ群峰や妙高山みょうこうさんや日光白根しらね男体山なんたいさん、赤城山、浅間山、富士山からも見えるには、見えているはずであるが群峰畳嶂の中にあるから
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
べらぼうめ、鉱山掘夫かなやまほりがいちいち山の名をきくやつがあるものか。トノコヤとうげ雨池あまいけくだ勾配こうばい、ヌックと向こうに立っているのが、甲信駿こうしんすんの三国にまたがっている白根しらねたけわしやま
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雲白く、秀でたる白根しらねが岳の頂に、四時の雪はありながら、田は乾き、畠は割れつつ、瓜の畠の葉も赤い。来た処も、く道も、露草は胡麻ごまのようにひからび、蓼の紅は蚯蚓みみずただれたかと疑われる。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北には身延嶽みのぶたけ天をいただき、南には鷹取たかとりたけ雲につづき、東には天子てんし嶽日たけひとたけをなじ、西には又、峨々がゝとして大山つづきて白根しらねたけにわたれり。さるのなくこゑてんに響き、蝉のさえづり地にみてり。
隣村を白根しらね村という。この白根村は、雑穀ざっこくのできる農村であった。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
机竜之助のいるところはかの白根しらねの麓。こうしているうちに秋もけてしまって、雪にでもなっては道の難儀が思いやられる。
よし、その言い置いた通り白根しらねの山ふところに入ったにしろ、そこでお君が兵馬に会えようとは思われず、いわんや、その道は、険山峨々ががとして鳥も通わぬところがある。
白根しらねの方へ夕陽の光がひときわ赤く夕焼をこしらえて、この桟敷の屋根へ金箭きんせんを射るようにさしかけていましたから、下の広場から見物するにはまだ充分の光でありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ずうっとこの白根しらねの奥に奈良田というところがある、そこに望月という郷士の家がある、これは徳川家以前の旧家で、天文永禄てんぶんえいろくあたりから知られている家柄だ、そこの家でいま婚礼がある
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人跡じんせきの容易に到らない道志谷どうしだにを上って行くと、丹沢から焼山を経て赤石連山になって、その裏に鳥も通わぬ白根しらねの峰つづきが見える。富士の現われるのは、その赤石連山と焼山岳の間であります。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)