痘痕面あばたづら)” の例文
「道はヌカるし、固めておけばジクジク流れ出すし、泥と一緒に混合ごっちゃになって、白粉おしろいげて、痘痕面あばたづら露出むきだしたようなこのザマといったら」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
有松氏の顔は名代の痘痕面あばたづらなので、その窪みに入り込んだ砂利は、おいそれととりばや穿ほじくり出す事が出来なかつたのだ。
主人は痘痕面あばたづらである。御維新前ごいっしんまえはあばたも大分だいぶ流行はやったものだそうだが日英同盟の今日こんにちから見ると、こんな顔はいささか時候おくれの感がある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
村長は四十五ぐらいで、痘痕面あばたづらで、頭はなかば白かった。ここあたりによく見るタイプで、言葉には時々武州訛ぶしゅうなまりまじる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
癪にさわるから後姿を睨み付けてやりましたら、その痘痕面あばたづらの奴がひょいと降り口で振り返った拍子に私の顔を見ると、慌てて逃げるように降りて行きました
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なかには容貌ようぼう魁偉かいいの将軍が乗っていた。日清戦争実記以来写真銅版でお馴染の痘痕面あばたづらだった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
寝釈迦ねしゃかだか、化地蔵ばけじぞうだか、異体の知れない、若い癖に、鬼見たような痘痕面あばたづらで、渾名あだな鍍金めっきの銀次ッて喰い詰めものが、新床だとぎ出して、御免下さいまし、か何かで、せしめに行った奴を
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夏蜜柑のやうな痘痕面あばたづらをした少将の後には、婦人のやうな熊沢蕃山や津田左源太などがかしこまつてゐたが、手品師の眼には顔の見さかひなどは少しも附かなかつた。
あの男に相違ないと結論した刹那、戸が開いて現れたのは果してその痘痕面あばたづらだった。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
総じてへやの一体の装飾かざりが、く野暮な商人あきうどらしい好みで、その火鉢の前にはいつもでつぷりと肥つた、大きい頭の、痘痕面あばたづらの、大縞おほしま褞袍どてらを着た五十ばかりの中老漢ちゆうおやぢ趺坐あぐらをかいて坐つて居るので
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
夏蜜柑のやうな痘痕面あばたづらをした少将の後には、婦人のやうな熊沢蕃山や、津田左源太などが畏まつてゐたが、手品師の眼には顔の見さかひなどは少しもつかなかつた。
手品師と蕃山 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「あの痘痕面あばたづらは一体何者だい?」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)