病躯びやうく)” の例文
ああ思ひきや、西土せいどはるかにくべかりし身の、こゝに病躯びやうくを故山にとゞめて山河の契りをはたさむとは。しくもあざなはれたるわが運命うんめいかな。
清見寺の鐘声 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
石原の利助の病躯びやうくを助けて十手捕繩を預つて居る若い新吉にしては、それ位のあせりのあるのは無理のないことでした。
卯平うへい患者くわんじやの一にんでさうしておしないへなやんでた。おしなはゝ懇切こんせつ介抱かいはうからかれすくはれた。かれはどうしても瀕死ひんし女房にようばうかたはら病躯びやうくはこぶことが出來できなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼はこの時、偶然な契機によつて、醜き一切に対する反感を師匠の病躯びやうくの上に洩らしたのであらうか。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
とりわけこの三、四年、病気と闘ふ気分のめつきり衰へてきた私は、自分の病躯びやうくに和やかな、触りのよい春を見つけるか、また秋を迎へるかすることができると、そのたびごとにほつとして
春の賦 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
一時中学の書記となり、自炊生活を営みし時、「夕月ゆふづきあぢ買ふ書記の細さかな」とみづか病躯びやうくあざけりしことあり。失恋せる相手も見しことあれども、今は如何いかになりしや知らず。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)