疳性かんしょう)” の例文
与一は二寸ばかりの黄色い蝋燭ろうそくくぎ箱の中から探し出すと、灯をつけて台所のある部屋へやの方へ疳性かんしょうらしく歩いて行った。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
近所のかしらのお神さんのことで、庸三も疳性かんしょうのそのお神さんの手に縫ったものを着つけると、誰の縫ったものでも、ぴたり気持に来ないのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ありますよ。雇人が入るんで、毎晩立ちますが、私は疳性かんしょうで、流しの広い、上がり湯のふんだんにある銭湯でないと、入ったような気がしません」
一体疳性かんしょうだから夜具やぐ蒲団ふとんなどは自分のものへ楽に寝ないと寝たような心持ちがしない。小供の時から、友達のうちへとまった事はほとんどないくらいだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
上野の駅からこの三十四五の痩せぎすな女の疳性かんしょうらしい横顔がサイにいい印象を与えていなかったのであった。
三月の第四日曜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
余ははなはだしき疳性かんしょうにて毎朝衣服を母なる人に着せてもらひしが、常に一度にては済まず、何処どこか気持しければ二、三度も着かへるを常とせるをもて、これにりて母なる人をくるしめたる事もありき。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
年はもう六十恰好、お酒を頂くと、疳性かんしょうで、素裸でなければ眠られないという厄介な親爺おやじ、これも遠縁の飼い殺しで、こんな時役に立つような人間ではありません。
そっち此方こっち戸締をしたり、一日取ちらかった其処そこらを疳性かんしょうらしく取片着けたりしていたが、そのうちに夫婦の間にぼつぼつ話がはじまって、今日行ったお茶屋のうわさなども出た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
黒木三之介様のお世話になっている身体からだで、いつも夕方までには、うんとめかし込んでおかなければならず、お六はお引摺りの日髪日湯ひがみひゆで、おまけに疳性かんしょうと来ているから
笹村は甥を呼びつけていいつけたが、甥は疳性かんしょうの目を伏せているばかりで、身にしみて聞いてもいなかった。そして表で口笛の呼出しがかかると、じきにずるりとけて行ってしまった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それがどうだろう医師の診断によると、死因は炭酸瓦斯ガス中毒と、言うではないか。そんな事があるものだろうか——もっとも私は疳性かんしょうで、朝のコーヒーは自分で入れなければ承知しない。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「でも私、疳性かんしょうですから。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「主人の金右衛門が疳性かんしょうで、どこか開いていなきゃ夜寝付けなかったというぜ」
頭痛持ちで疳性かんしょうだから、夜風に吹かれるのが好きで、チョイチョイ出かけます、——本当に頭痛持ちなんですね。頭へ油をつけるのが嫌いで、三日に一度、五日に一度は洗い髪にしております。
「捜しましたよ。大掃除ほどの騒ぎをしましたが、床下にも、天井裏にも、押入にも畳の目にも、のみ一匹隠れているこっちゃございません。この通り、親分は疳性かんしょうで、掛物も置物もない部屋です」