疫病えやみ)” の例文
しかし疫病えやみは日一日と益〻猛威をたくましゅうし、たおれる人間の数を知らず、それこそ本統ほんとう死人しびとの丘が町の真ん中に出来そうであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かつ慶長けいちょうの初めには疫病えやみがはやり、天変地異てんぺんちいがつづいた。こんなことを仏僧や神官が神仏の怒りとして持ち出さずにはおくわけはなかった。
人に聞けば、疫病えやみで死んだの、筑紫つくしへ下ったのと言いおるわ。あとで聞けば、なんの、奈良坂ならざかのしるべのもとへ、一時身を寄せておったげじゃ。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「また出水でみずか。うるさいことじゃ。出水のあとは大かた疫病えやみであろう。出水、疫病、それにつづいて盗賊、世がまた昔に戻ったか。太平の春は短いものじゃ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かてて加えて寛正はじめの年は未聞の大凶作、あくる年には疫病えやみさえもはやり、京の人死ひとじには日に幾百と数しれず、四条五条の橋の下に穴をうがってしかばねを埋める始末となりました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
僕の五官は疫病えやみにでも取付とりつかれたように、あの女子おなごのために蹣跚よろめいてただ一つの的をねらっていた。この的この成就はやみうち電光いなずまの閃くような光と薫とを持っているように、僕には思われたのだ。
いとも三三一げんなる法師にて、およ三三二疫病えやみ妖災もののけいなむしなどをもよく祈るよしにて、此のさとの人はたふとみあへり。此の法師三三三むかへてんとて、あわただしく三三四呼びつげるに、ややして来りぬ。
「城下に疫病えやみが出来ようぞ」「死人しびとで丘をつくろうぞ」こう唄った彼らの唄の言葉が心にかかってならないのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かてて加へて寛正はじめの年は未聞の大凶作、あくる年には疫病えやみさへもはやり、京の人死ひとじには日に幾百と数しれず、四条五条の橋の下に穴をうがつてしかばねを埋める始末となりました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
ひょろ長い葉柳はやなぎが一本、このごろはやる疫病えやみにでもかかったかと思う姿で、かたばかりの影を地の上に落としているが、ここにさえ、その日にかわいた葉を動かそうという風はない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
城中へ疫病えやみが入り込んだのであって、さすがに領主の甚五衛門や浪人組の増良雄ますらおや花村右門と云ったような勇士の面々には変りもないが、生若い武士や使僕こものなどは
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
獰猛どうもうな野犬の群れが、ここに捨ててあった疫病えやみの女を、よいのうちから餌食にして、互いにきばをかみながら、そのちぎれちぎれな肉や骨を、奪い合っているところへ、来たのである。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
現在、わしが今、髪を抜いた女などはな、蛇を四寸しすんばかりずつに切って干したのを、干魚ほしうおだと云うて、太刀帯たてわきの陣へ売りにんだわ。疫病えやみにかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)