畳紙たとうがみ)” の例文
旧字:疊紙
ですから、病院へ入ったあとで、針箱の抽斗ひきだしにも、畳紙たとうがみの中にも、しわになった千代紙一枚もなく……油染あぶらじみた手柄一掛ひとかけもなかったんですって。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取出したのは、畳紙たとうがみに入れた畳二枚ほどの大絵図面が三枚と、半紙一枚に書いた結び文が一通、平次はそれをくり拡げて、しばらくは眺め入りました。
そして彼女は畳紙たとうがみにさらさらと書きくだして、それを自分で持って行くべきか、仕えの女に持たせようかと考えているあいだにも、そとの声はつづいた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
冬の日、紫のお高祖頭巾こそずきんかぶって、畳紙たとうがみや筆の簾巻すだれまきにしたのを持って通ってゆく姿が今でも眼に残っている。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
何のまじないに使ったものか、青竹にはさんだ祈願用の小さな畳紙たとうがみです。のみならず、その小さな玉串たまぐしの表には、達者な筆で鬼子母神と書かれてあるのでした。
黒皮縅くろかわおどしの鎧を着て二十四差した黒縨くろほろの矢を負い、塗籠籐ぬりごめとうの弓を脇にかいばさんだ勇ましい姿であったが、かぶとを脱いで背中にかけ、えびらから、小硯こすずり畳紙たとうがみを取りだすと、すぐ願書を書きはじめた。
懐から取出した畳紙たとうがみ、それを開くと針枕が入って居て、中には、金の毫鍼ごうしんが十本、短いのは一寸五分ほどのから、長いのは五寸ほどのまで入って居ります。
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そのかわり、お前にあげようと思って、宿で頼んで、間に合わせにこしらえておいたからッて、畳紙たとうがみに入っていたの。私はその方の奥様が着るのかと思ったんです。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
供の者は畳紙たとうがみに硯をそえて持って行き、右馬の頭の前に置いた。右馬の頭は、端然と硯に墨をあてがい、筆先を柔らげると重い筆さばきで書きながしたが、思い返していま一度書きあらためた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
なかから、畳紙たとうがみして、ころ/\とゆすりながらのき明前あかりさきつてた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
藤兵衛が隣の部屋で食事をしている間に、誰かが藤兵衛に知れないように神棚に偽の畳紙たとうがみを置いて、すぐお勇の部屋へ引返し、置床の上から、真物ほんものの畳紙を持って行くことが出来るでしょうか。