はた)” の例文
それはいつも行き馴れたいけはたの待合で、ふいと或る日の夕方、私は人の妻かと見えて丸髷につてゐる若い女に出會つた事である。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
そのころ日比谷や池ノはた隅田川すみだがわにも納涼大会があり、映画や演芸の屋台などで人を集め、大川の舟遊びも盛っていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「二郎や、それは魔物がお前を見込んでいるのだ。もうもう決してその池のはたへ行くことはならんぞ。」
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
東岸一帶は小高い丘をなしておのづから海風をよけ、幾多の人家は水のはたから上段かけて其蔭に群がり、幾多の舟船は其蔭にいこうて居る。余等は辨天社から燈臺の方に上つた。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
東岸一帯は小高いおかをなしておのずから海風かいふうをよけ、幾多の人家は水のはたから上段かけて其かげむらがり、幾多の舟船は其蔭に息うて居る。余等は弁天社から燈台の方に上った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
庸三の裏の家に片着けてあった彼女の荷物——二人で一緒に池のはたで買って来たあの箪笥たんすと鏡台、それにとびらのガラスに桃色のきれを縮らした本箱や行李こうり
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一日の雑沓ざっとうと暑熱に疲れきったような池のはたでは、建聯たてつらなった売店がどこも彼処かしこも店を仕舞いかけているところであったが、それでもまだ人足ひとあしは絶えなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お庄は賑やかないけはたから公園のすその方へ出ると、やがて家並みのごちゃごちゃした狭い通りへ入った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして、しらしらした夜明け方に、語りくたびれて森や池のはたを歩いていた二人の姿を考えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一、二度来たことのある釣堀つりぼりや射的の前を通って、それからのろのろと池のはたの方へ出て見たが、人込みや楽隊の響きにおじけて、どこへ行って何を見ようという気もしなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
壺は植木屋の幸さんが、ひもで首から下げて持って行った。その後へ叔父とお庄の俥が続いた。三人は帰りにはすの咲いている池のはた彷徨ぶらつきながら、広小路で手軽に昼飯などを食ったのであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二百円余り手がついたわけだったが、今の葉子には少しはずみすぎる感じでもあった。まだどこかに薄い陰のある四月の日を浴びながら、二人は池のはたをまわって、東照宮の段々を上って行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)