町端まちはず)” の例文
去年岡山の町端まちはずれに避難していた頃、同行のS氏は朝夕炊事の際片手に仏蘭西文典をひらき、片手の団扇うちわで七輪の火をあおぎながら
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
K市街地の町端まちはずれには空屋あきやが四軒までならんでいた。小さな窓は髑髏どくろのそれのような真暗な眼を往来に向けて開いていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まだこれからと飲んでいる連中は、あと勘定として亭主にあずけ、三人は町端まちはずれに近い楊雄の屋敷へひきあげた。酔歩まんさん。楊雄は上機嫌で
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
静岡しずおかの何でも町端まちはずれが、その人の父が其処そこの屋敷に住んだところ、半年はんねんばかりというものは不思議な出来事が続けさまで、発端は五月頃、庭へ五六輪
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寺の在る処はもとは淋しい町端まちはずれで、門前の芋畠を吹く風も悲しい程だったが、今は可なりの町並になって居て、昔やすんだ事のある門脇もんわきの掛茶屋は影も形も無くなり
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私はともに坐して半日の秋を語りたる、京都の侘しき町端まちはずれなる氏の書斎の印象を胸に守っている。沈痛な、瞳の俊秀な光をおさめた、やや物瘠せしたような顔が忘れられない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「ここはちょうど追分で、町端まちはずれから西へ遥かに行けば二龍山。東の道を行って、清風山を越えれば、峠向うはすぐ清風鎮の官城が見える街ですよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、もう目貫めぬきの町は過ぎた、次第に場末、町端まちはずれの——と言うとすぐにおおきな山、けわしい坂になります——あたりで。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしは先刻さっき茶を飲んだ家の女に教えられた改正道路というのを思返して、板塀に沿うて其方そちらへ行って見ると、近年東京の町端まちはずれのいずこにも開かれている広い一直線の道路が走っていて
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そしてついに、町端まちはずれの木賃宿に、彼のいることを突きとめ、会って、とたんに、はらはらと涙をたらした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄暮の色がうッすらと沈んでいる桃谷の町端まちはずれ、天満てんまの万吉の家の前にたたずむ侍が低く呼ぶ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんでも、町端まちはずれで、桃のがあるっていいましたぜ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)