獄舎ひとや)” の例文
旧字:獄舍
「実はゆくりなくも、伊丹の城中で、同じ目的の下に入り込んでいた天蔵どのと、城内櫓下やぐらした獄舎ひとやの前で出会うたのでございました」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遼陽の獄舎ひとやかれて清けれど猶かなしきは窓の金網かなあみ
話が途切れると獄舎ひとやのうちは暗くありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや。君のお旨を、よく申し聞かせ、はかりごとのためなりと、得心とくしんの上で、仮の獄舎ひとやへ移しておくなら、なんのさまたげもないでしょう」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
笠置のとらわれ公卿は、諸家に分けられ、二人の皇子もべつべつに監禁されておりまする。そのうえ、ここには先帝のお獄舎ひとやもある始末。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今日よりはお獄舎ひとやへ、夜の灯も、火桶ひおけ(火鉢)も差し上げますゆえ、昼や御寝ぎょしの座までも、充分おしのぎよいように、お用いください」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まずはよし。これでお獄舎ひとやの正月も来よう。いや今宵すぐにも、獄内は春景色かな。ただ近習のお二人は、悩まされようて」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明日あしたにでもすぐ秩父へ行って、下手人はこの身であると、自首いたして、お師匠さまを獄舎ひとやから解いておもどし致します
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのほか、解官停任げかんていにん公卿くげばらも、かたっぱしから、獄舎ひとや同様なかこいに抛り込んで監視するなど、粛清しゅくせいのあらしは、一時、満都をふるえあがらせた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もう夏のころから、願書を出してあるが、あの依怙地えこじな代官の萩原年景はぎわらとしかげが、今もって、許すとはいわぬ。——これでは獄舎ひとやよりもひどい住居すまいじゃ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『——そういう事とは知らない八雲様は、もう、私は獄舎ひとやの人間か、死んだ者とお思いになって、一図いちずに、先へお出でになってしまったのではないか?』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、その郁次郎の獄舎ひとやは、いていた。四、五人の獄卒が中へはいって、今や、彼をふたたび百日前の死の筵に、坐らせようとしている瞬間だった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その琵琶は、帝が六波羅におわしたころ、中宮ちゅうぐう(皇后の禧子よしこ)からお獄舎ひとやのうちに献じた物である。遠く、中宮へお別れを告げるお心もあったであろうか。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
獄舎ひとやだ」ということは、彼にも、ひと目でわかった。彼のほかにも、牢のすみには、臭い動物みたいに、気力なく、ごろごろしている囚人が、幾人かあった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪人勦滅そうめつのその日を黄道吉日こうどうきちにちとして、冤罪むじつ獄舎ひとやから出た花聟と、悲嘆のどん底から救われた花嫁とを、この江漢が、一命にかけても、必ず、めでとう手を握らせてお見せする。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは六波羅の獄舎ひとやにいたころから察していた。いまさらゆるすもゆるさぬもない」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恋人のいる獄舎ひとやの塀の外を、夢遊病者のように、めぐって歩いた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、よい所へ。じつは獄舎ひとやのうちの先帝が、頻りに御辺ごへん
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)