猿臂えんび)” の例文
弓を捨てると、馬超は、あかがねづくりの八角棒を持って、張飛を待った。張飛の蛇矛じゃぼこは、彼の猿臂えんびを加えて、二丈あまりも前へ伸びた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
スルト今まで居眠りをしていた剛力先生、二人共ノソノソやって来て、吾輩等の背後うしろから猿臂えんびを伸ばして水筒をつかもうとする。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
だッと掴みかかろうとしたのを、静かにするりとかいくぐっておいて、疾風のように逃げ出そうとした女スリを横抱きに猿臂えんびを伸ばしざま抱きとると
正造は殺気立って、議長の袖をとらえようと猿臂えんびをのばしたが、守衛たちに阻まれて無理やりに退場させられた。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
太郎は、すばやく猿臂えんびをのべて、浅黄の水干すいかん襟上えりがみをつかみながら、相手をそこへ引き倒した。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と云いつつ突然ぐいと猿臂えんびを伸ばしてルパンの襟頸えりくびを掴んだ。何たる無礼の振舞だ!ルパンたるものいかにしてかくのごとき暴戻ぼうれいに忍び得よう。いわんや婦人の面前である。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
とうとう、追手の猿臂えんびが乞食の襟髪えりがみにかかった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
吾輩に向い合って腰掛けていたのは頬骨の高いハイカラ紳士、物をもいわず猿臂えんびを伸ばして、吾輩が外を眺めている車窓の日除けを閉ざす。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
と言うように猿臂えんびを伸ばして、京弥の背に手を廻そうとしたのを、体を沈めて素早く腰車にかけると、もんどり打たして笑止なる化け大名をとって投げました。
太郎もまたその刹那せつな猿臂えんびをのばし、弟の襟上えりがみをつかみながら、必死になって引きずり上げる。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
イヤなくても、ひと弱點じやくてんじやうずることはや猛狒ゴリラは、たちま彼方かなたがけから此方こなた鐵車てつしや屋根やね飛移とびうつつて、鐵檻てつおりあひだから猿臂えんびのばして、吾等われらつかさんず氣色けしき吾等われら一生懸命いつせうけんめい小銃せうじう發射はつしやしたり