爛熳らんまん)” の例文
その頃いつも八重さくらがさかりで、兄はその爛熳らんまんたる花に山吹やまぶき二枝ふたえだほどぜてかめにさして供へた。伯母おばその日は屹度きつとたけのこ土産みやげに持つて来た。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
西洋人は日本一の御馳走といって悦ぶそうだが冬の寒い日に百花爛熳らんまんたる温室内で天下の珍味を御馳走になったらそれほど愉快な事はあるまい。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
父親は云う事を聴かないと、うちを追出して古井戸の柳へ縛りつけるぞと怒鳴どなって、爛熳らんまんたる児童の天真てんしんを損う事をばかえりみなかった。ああ、恐しい幼少の記念。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
然れども至人は之を第二の心宮に暴露して人のほしいまゝに見るに任す、之を被ふにあらず、之を示すにあらず、其天真の爛熳らんまんたるや、何人をも何者をも敵とせず味方とせず
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
殊に怪しきは我が故郷の昔の庭園を思ひ出だす時、先づ我が眼に浮ぶ者は、爛熳らんまんたる桜にもあらず、妖冶ようやたる芍薬しゃくやくにもあらず、溜壺に近き一うねの豌豆えんどうと、蚕豆そらまめの花咲く景色なり。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼は獄中において雑煮ぞうにを喫しつつ、その少年の日、兄と護国山麓の旧家において、雑煮を健啖したる当時を想い出し、ためにかかる天真爛熳らんまん佳謔かぎゃく善笑の文字を寄せたるなからんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その恐ろしき程真摯しんしなる所、その天地をも動かさんとする熱心の所、その天真爛熳らんまんにして瑕瑜かゆ相いおおわざる所、ことごとく挙げて『幽室文稿』にありとせば、他方の天下みな是とするもこれを信ぜず
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)