熟々つらつら)” の例文
何か探そうとして机の抽斗ひきだしを開け、うちれてあッた年頃五十の上をゆく白髪たる老婦の写真にフト眼をめて、我にもなく熟々つらつらながめ入ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
まつたくもつて、巧々うまうまペテンにかかつたのである。とはいふものの、さて熟々つらつらふりかへつてみるに、はなから臭いと思はないのが不思議であつた。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
自分は熟々つらつら案じて見るに、こんな連中があとで極端な謡い嫌いになって、到る処この時の経験を吹聴してまわるから、世上に比較的謡曲嫌いが多く
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日こんにち人は此の單純野蠻なる審判を吾等には無關係なる遠き代のをかしき物語として無關心に語り傳ふれども、熟々つらつらおもんみるに現在吾々の營める社會に於ても
貝殻追放:001 はしがき (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
それは何であるかというに、まず私が熟々つらつら考えるにかの「ペルリ」が来た以来洋学というものが流行はやった。
熟々つらつら旅寝のいぶせき事も知ったし、その上自分も父が旅に病んでいて、それがためにこういう淋しい旅行をするのかと思うといよいよ夢も結ばれぬのであった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
それ熟々つらつら、史をあんずるに、城なり、陣所、戦場なり、いくさおんなの出る方が大概ける。この日、道学先生に対する語学者は勝利でなく、礼之進の靴は名誉の負傷で、揚々と引挙げた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ホノ/″\と紅味を含んだ厚肉の頬のあたりを熟々つらつらながめて、予は又た十年の昔、新聞社の二階で始めて見た時を思ひ浮べた。彼の頃の翁の容貌かおには「疲労」の二字を隠くすことが出来なかつた。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
即ち政治家に於ても法律家に於ても、あるいは軍人に於てもそういう色々な派が出来るようになった。そこで私が熟々つらつら考えるに、これでは日本の学問の根底がない。
ところが熟々つらつら考へてみるに、葉書が先方へ着いて呉七段の所へまはつて解説が新聞にでる迄には四日も五日もかゝる筈だし、解説してくれないかも分らない。愈々一命にかゝはるのである。
生命拾ひをした話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
しばらく有ッて文三は、はふり落ちる涙の雨をハンカチーフで拭止ぬぐいとめた……がさて拭ッても取れないのは沸返える胸のムシャクシャ、熟々つらつら思廻おもいめぐらせば廻らすほど、悔しくも又口惜くちおしくなる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかし熟々つらつら見てとく点撿てんけんすると、これにも種々さまざま種類のあるもので、まずひげから書立てれば、口髭、頬髯ほおひげあごひげやけ興起おやした拿破崙髭ナポレオンひげに、チンの口めいた比斯馬克髭ビスマルクひげ、そのほか矮鶏髭ちゃぼひげ貉髭むじなひげ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)