溝川みぞかわ)” の例文
以上河流かりゅうと運河の外なお東京の水の美に関しては処々の下水が落合って次第に川の如き流をなす溝川みぞかわの光景を尋ねて見なければならない。
三味線さみせんきて折々おりおりわがかどきたるもの、溝川みぞかわどじようを捕ふるもの、附木つけぎ草履ぞうりなどひさぎに来るものだちは、皆このどもが母なり、父なり、祖母などなり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その頃はここらに溝川みぞかわのようなものが幾すじも流れているのを、お冬はそれからそれへと飛ぶように跳り越えてゆくので、捕り方の者どももおどろかされた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
右近衛府うこんえふ溝川みぞかわのあたりにうずめるということに代えて、西の渡殿わたどのの下から流れて出る園の川のみぎわにうずめてあったのを、惟光これみつ宰相の子の兵衛尉ひょうえのじょうが掘って持って来たのである。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
花畠はなばたけむぎの畠、そらまめの花、田境たざかいはんの木をめる遠霞とおがすみ、村の小鮒こぶな逐廻おいまわしている溝川みぞかわ竹籬たけがき薮椿やぶつばきの落ちはららいでいる、小禽ことりのちらつく、何ということも無い田舎路ではあるが
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たとえば砲兵工廠ほうへいこうしょう煉瓦塀れんがべいにその片側を限られた小石川の富坂とみざかをばもう降尽おりつくそうという左側に一筋の溝川みぞかわがある。その流れに沿うて蒟蒻閻魔こんにゃくえんまの方へと曲って行く横町なぞすなわちその一例である。