湯浴ゆあみ)” の例文
きょうに限って、終日ひねもす、鍬も書物も手にしなかった老公は、湯浴ゆあみをすまして、夜を待っていたすがたである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楼前の緑はやうやく暗く、遠近をちこちの水音えて、はや夕暮ゆふくるる山風の身にめば、先づ湯浴ゆあみなどせばやと、何気無く座敷に入りたる彼のまなこを、又一個ひとつ驚かす物こそあれ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
湯浴ゆあみをして、衣裳を改めて、御陽光をお拝みになりましたから、家の人たちは、もうこの世のお暇乞いとまごいを申し上げるのだろうと思っていましたところが、御陽光が宗忠様の胸いっぱいになって
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ひとみ青きフランス酒場さかばたは湯浴ゆあみのさまを思ひやり
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たった一度の湯治おなりに万金の工費をかけて、そのまま建ちぐされとなっている将軍家のお湯浴ゆあみ御殿や諸侯の湯荘など、築地ついじなまこ塀の建ち並ぶ小路をスタスタと話もせずに急いで
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は食事ををはりて湯浴ゆあみし、少焉しばらくありて九時を聞きけれど、かの客はいまだ帰らず。寝床にりて、程無く十時の鳴りけるにも、水声むなしく楼をめぐりて、松の嵐の枕上ちんじように落つる有るのみなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
洋妾らしやめんの長き湯浴ゆあみをかいま見る黄なる戸外とのもつばくらのむれ
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)