混濁こんだく)” の例文
またこんな混濁こんだくの底から実は必死な次代の良心が萠芽ほうがしつつあることも、史にちょうせば期待されないことでもない。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無理に無理を押し通して立働たちはたらいていたばかりでなく、昨年の正月に血をいてたおれた時にも、死ぬが死ぬまで意識の混濁こんだくを見せなかったものである。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
若い時の白内障しろそこひが、身體の異常な衝動シヨツクで、混濁こんだくした眼の水晶體が剥脱はくだつし、覺束なくも見えるやうになるといふ例は、淨瑠璃じやうるり壺坂靈驗記つぼさかれいげんき澤市さはいちの例でも證明されることです。
此の風では、街頭まちすなほこり大變たいへんなものだらうな。いや、東京とうきやうの空氣は混濁こんだくしてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
澄まし込むべき四方あたり混濁こんだくというものの全然ない世界ですから、もし弁信の耳が、この間から何物をか聞き得たとすれば、それは彼の耳の中からおのずから起ってくる雑音を、彼自身が
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これが、混濁こんだくした頼母のあたまへ、最初に来た質問の一つだ。同時にかれは、反対側の雨戸へ、張りつくように身を引いて、じイッ、聞き耳を立てながら、長い廊下の左右へ眼を配った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
湖面に美しい鳥肌をたてている有様、それらの寂しく、すがすがしい風物が、混濁こんだくし切った脳髄のうずいを洗い清め、一時は、あの様に私を苦しめた神経衰弱も、すっかり忘れてしまう程でありました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と。擧世きよせい(六一)混濁こんだくして(六二)清士せいしすなはあらはる。
頭の中はあの土蔵の闇を詰めて来たように、混濁こんだくしている。——消そうとすればするほど、薄命な女の死に顔や、因果な子の乳の香が、そこらに、ちらつく。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとたびこの煩悩のとりことなり、この悪毒に触れまする時は、賢者も愚者となり、英明の人も混濁こんだくのやからとなり、英雄も弱者となり——数千劫すせんごうの功徳を積んだ聖僧でさえも、一朝の怒りのために
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伝写本から活字の近刊書にいたるまで、同じ史料の並列へいれつだ、この書にあってあの書にないというような掘り出しの記事は絶対にない。あれば俗説の尾鰭おひれか編者の史眼の混濁こんだくである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)