流元ながしもと)” の例文
三十間堀へ出ようとする紀の国橋の畔、なるほど、寝呆け稲荷の裏に当って、見る影もない三軒長屋、端の流元ながしもとからこわれ行燈の灯がちらちらと——。
それまでは隣家となりの内が、内職をして起きている、と一つにゃ流元ながしもとに水のない男世帯、面倒さも面倒なりで、そのままにして置きました。さあ、これが大変。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
流元ながしもとで働く母がてつくひ(魚の名)のあらをそばにどけたのを、黒にやるんだなと思つて居ると又考へ直したらしく、それを一緒に鍋に入れて煮てしまふのを見た事もあつた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
流元ながしもとで氷を砕いて立上ろうとすると、くらくらとして急にあたりが暗くなって終った。それからどれ位経ったか、赤ン坊の泣声に気がつくと、私は台所の板敷につっしていた。
愛の為めに (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
自分は真夜中に人の住居すまいの奥を照らす月影を見て、おのずから寒いと感じた。素足すあしのまま板の間へ出て台所の流元ながしもとまで来て見ると、四辺あたりしんとしている。表をのぞくと月ばかりである。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「出ました、出ました先生、ダイヤの頸飾が流元ながしもとから出てきました」
謎の頸飾事件 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
戸棚とだな流元ながしもと綺麗きれいに取片着いていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
飯粒まんまつぶいてやった、雀ッ子にだって残懐なごりおしいや、蔦ちゃんなんか、馴染なじみになって、酸漿ほおずきを鳴らすと鳴く、流元ながしもとけえろはどうしたろうッてふさぐじゃねえか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お末は黙つたまゝで兄の膳を流元ながしもとにもつて行つて洗ひ出した。明日にしろと云つても、聴かないで黙つたまゝ洗つてしまつた。帰りがけに仏壇に行つて、灯心を代へて、位牌に一寸御辞儀をした。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
水は悪いし、流元ながしもとなんざ湿地で、いつでもじくじくして、心持が悪いっちゃあない。雪どけの時分ころになると、庭が一杯水になるわ。それから春から夏へかけてはすももの樹が、毛虫で一杯。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)