泥土どろ)” の例文
依て此石を庚申塚に祭り上に泥土どろぬりて光をかくす、今なほこけむしてあり。好事かうずの人この石をへども村人そんじんたゝりあらん㕝をおそれてゆるさずとぞ。
光秀について来た側臣の重なる人々も、そこで泥土どろの手足を洗い、濡れみのを積んで、十幾名かは、本丸のほうへ通されて行った。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加賀さまの雪振舞ゆきぶるまい。——加賀屋敷、冷てえ土だと泥土どろめ、と川柳点せんりゅうてんにもあるくらいで、盛夏の候、江戸の行事のひとつ。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
なに左樣さうでない、このじう泥土どろと、松脂まつやにとで、毛皮けがわてつのやうにかためてるのだから、小銃せうじう彈丸たまぐらいでは容易ようゐつらぬこと出來できないのさ。』とわたくしなぐさめた。
彼女は続いて手を伸ばせば、紫藤は泥と水のなかから飛び上りさま、水を含んだ泥土どろを吐き、地に落ちたがたちまち、彼女が以前作ったような小さいものになった。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
女は、そこに金剛のやうな藝術の力はあつても、花のやうな容貌がなければ魅力の均衡つりあひは保たれる筈がなかつた。みのるの舞臺は、ある一面からは泥土どろを投げ付けられる樣な誹笑そしりを受けたのであつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
大鍬の泥土どろをかきおとすのもわすれて
依て此石を庚申塚に祭り上に泥土どろぬりて光をかくす、今なほこけむしてあり。好事かうずの人この石をへども村人そんじんたゝりあらん㕝をおそれてゆるさずとぞ。
「あーあ!」彼女はもちろん自分が作ったものとは思いつつも、この白いいものようなものが、泥土どろのなかにあったのかと思うと、非常に不思議でたまらないのである。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
その顔にも泥土どろね上がっていて、乱れた髪の毛がかかり、総体に鬼気のある姿を、さらにけわしい身構えに固くして、はやぶさが翼を収めているようにじっと隅へ身を寄せているのだった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)